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どうして鍼灸は効くの?(103)-虚血性心疾患・脳疾患について

2026年10月01日 公開

五回に渡り、虚血性心疾患の予防と治療に鍼灸がどうやって役立っているのかについて見てきました。今日からは虚血性脳疾患について考えます。

 

2、虚血性脳疾患

脳血管疾患は血管の閉塞と血管の破綻と大まかに分類されます。血管の破綻は脳出血、脳溢血ともいいますが、血管の閉塞は脳血栓(脳動脈の血栓による血管閉塞)と脳塞栓(遠位からの血栓、たとえば心房細動による心臓壁の血栓が血流に乗って脳動脈を閉塞する)があります。血栓性脳梗塞は虚血性脳疾患を作り、原因はほとんど動脈粥状硬化です。また、現在のわが国では、脳梗塞は発症数も死亡数も八割弱で、脳出血よりはるかに多くなってきました。

 

昔から脳梗塞治療において鍼灸は大変活躍しています。その理由は、①脳神経細胞の再生や脳回路の再建、②脳血管の再生や脳血流の回復、③感覚・運動障害のある肢体筋肉萎縮の予防、筋力の維持などに、鍼灸は優れた治療効果を持つことにあります。

近年鍼灸に関する研究活動の強化にしたがって、脳梗塞の予防・治療にも力を入れています。

(1)鍼灸の脳虚血・再灌流に対する保護作用

虚血・再灌流による組織傷害についてはこのシリーズの全文で既に紹介した通りです。重複になりますが、ここでもう一度脳梗塞が発生した時、鍼灸の脳組織に対する保護作用を述べます。

 

①炎症性反応の抑制作用

中国医学科学院北京協和医学院北京協和病院中医科(前出)はラットを用いて、右側中大脳動脈閉塞モデル(MCAO)を作って、2時間後に挿入したナイロン糸(血栓として)を外して、虚血・再灌流ラットモデルを作成し、一部に鍼治療を施しました。鍼治療は再灌流した30分後、12時間後、24時間後に1回ずつした後、毎日1回の治療を継続しました。そして、モデル組と鍼治療組の梗塞のあった損傷脳組織に発現する炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-α)の量を測定して比較しました。

虚血・再灌流後の2~5日に、モデル組の炎症性サイトカイン発現量は著しく上昇したのに対し、鍼治療組はモデル組より有意に低下しました。

鍼の刺激で損傷脳組織の炎症性反応を抑制し、虚血・再灌流による血管・脳組織損傷からある程度に守ることができると考えられます。

 

脳虚血・再灌流による傷害は虚血局部の脳組織だけではなく、海馬*28区域も同じような損傷がみられます。そのため、いち早く虚血・再灌流による傷害を最小限に収めることこそが治療のポイントだと考えています。この考え方の元で、中国重慶医科大学付属第一病院神経内科はモデルラットを作成し、鍼治療の効果を観察することとしました。

虚血・再灌流傷害をもたらす元凶は炎症性反応ですので、観察するポイントはやはり、鍼の刺激は炎症性反応に対してどのような改善作用があるか、という一点につきます。

実験用ラットを仮手術組、モデル組、鍼組の3組に分けました。仮手術組はモデル組と同じように切開、縫合、内・外頚動脈の分離をし、ナイロン糸を挿入しません。鍼組は再灌流が開始した直後にすぐ鍼治療をし、12時間後、24時間後、48時間後に1回ずつ鍼治療をした。その後、3組の海馬内のIL-1β、IKKβの発現レベルを測定しました。

仮手術組と比べると、モデル組のIL-1βははるかに上昇しましたが、鍼組は時間の経つにつれ下降し、モデル組より有意に低下しました。

IKKβはNF-κBを活性化するキナーゼ(リン酸化酵素)で、NF-κBは転写因子として働く複合タンパク質です。通常、NF-κBは不活性型で細胞質に存在しますが、炎症性サイトカイン、活性酸素などにより細胞膜上にあるレセプターが刺激され、シグナル伝達でNF-κBを活性化させます。活性化されたNF-κBは細胞核に入り、転写因子としてDNAに働きかけて、結果としては炎症性サイトカイン発現を誘導し、マクロファージなどの炎症性細胞を活性化させます。

細胞質に存在するNF-κBは不活性型でいられるのは、その活性化を阻害するIκBというたんぱく質と結合している状態にあるからです。ただし、TNF-αなどのサイトカインの刺激でIKKβを活性化させ、活性化IKKβはIκBをリン酸化して分解させ、結果として、NF-κBをIκBから解放してNF-κBを活性化します。IKKβによるNF-κB活性化経路を第一経路(古典経路)といいます。ちなみに、CD40によるNF-κB活性化を第二経路(非古典経路)といい、そして紫外線によって活性化される経路を第三経路としています。ちなみに、前文にて鍼灸によりCD40(第二経路)の活性を抑制できるということも、再度、鍼灸の虚血・再灌流時の損傷組織に対する保護作用を立証しました。

重慶医科大学の実験結果は、仮手術組の海馬に発現するIKKβは少量であり、モデル組の発現は顕著に増加、鍼治療組は仮手術組ほどではありませんが、モデル組よりはるかに低下したデータを得られました。

数多くの研究論文から次のような結論にたどり着きました:

動脈粥状硬化症とそれによる心・脳疾患に対する鍼灸治療は有効です。その効果を現すメカニズムの一つは、病変血管や損傷組織における炎症性反応を抑制できる作用です。

*28 海馬:大脳(終脳)側頭葉内側深部にあり、大脳辺縁系の一部です。記憶、情報の整理、学習能力などを司るニューロの集まりで、虚血、酸素不足に非常に弱い。近年、認知症患者は増加する一方ですので、海馬細胞のリモデリングや機能維持などは非常に重要視されるようになりました。

秋の気配が近づいてきています。

 

このシリーズの内容は当治療院の許諾を得ないで無断で複製・転載した場合、当治療院(=作者)の著作権侵害になりますので、固く禁じます。

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