どうして鍼灸は効くの(79)? -糖尿病及びその予備軍
にんにちは。渋谷区幡ヶ谷の胡鍼灸治療院です。
今日から、鍼灸治療による生活習慣病の発症予防及び治療についてみていきます。
第3章 生活習慣病
生活習慣病は、「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」のことを指しており、例えば、癌、循環器疾患(脳卒中や虚血性心疾患など)、糖尿病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、高脂血症、高尿酸血症、高血圧、歯周病などがあります(厚生労働省のホームページによる)。生活習慣病による死亡者数は全体の6割を占めていて、なんとかなってしまう前に予防しておかないといけない病気です。生活習慣病は慢性疾患ですので、もし薬による治療を受けるなら、長い期間、場合によっては一生服用し続ける可能性が高いです。ここでいう薬は生活習慣病を根治するための薬は存在しないため、対症療法の薬になります。患者様には病気自体からくる心身のつらさ、長期にわたる薬の副作用による生活の質の低下、加齢とともに更に増える合併リスクなどが考えられます。国の財政にとっては国民医療費の大半がここで消えしまっています。例えば65歳以上において、年間20兆円(平成22年のデータ、この年の国民医療費の全体は38兆円でしたが、今は40兆円を超えたレベルが持続中)が生活習慣病の治療のために使われ、疾患別では、癌が最も多く、それから高血圧性疾患、脳血管疾患の順に多いです。
ここで「高血圧性疾患」で思い出したのですが、去年の秋から立て続きで3名の患者さま(50代後半~60代前半の方々です)が健康診断で突然血圧が高いと言われ、再検査となり、地元のクリニックで測り、やはり血圧が高いと言われました。すぐに鍼灸治療とストレスを軽減する自助努力で、3人とも3ヶ月以内で血圧が持続的に下がっていて、一年近くが経った今も、血圧の問題は出ていなく、落ち着いています。3人中お二人は、血圧が突然上がった当時、お仕事で非常に忙しく、心身とも強いストレスがかかっていたそうです。残り一名の方は当時を振り返り、お酒とお食事の内容に問題があったとおっしゃっておられます。そもそも加齢と共に血圧、血糖値、女性の場合、更年期後のコレステロール値の増加が医学的に説明できる正常な生理現象で、一律でなく、年齢と性別ファクターを考慮した、ある程度の許容範囲を持たせる考え方が自然のような気がします。そしてこの3人の患者様のように、仕事などのストレス、睡眠不足、飲酒(特に冷たいお酒)などからくる一時的な検査値の狂いも、人間ですから、十分にあり得ます。この段階で気づき、すぐに生活を改善すれば、病気だと診断されず済むわけです。
生活習慣病は食べ物、運動習慣、ストレス(休養、睡眠)、たばこ、お酒などが起因なら、これらを見直すのは一番の予防・治療になります。より信頼できる情報源からご自身が納得できる情報を入手し、口から入れる食べ物、飲み物の原材料、添加物、調理法などを意識し、食べる量・タイミングを調整しましょう。生活・仕事環境を改善したり、運動が足りないと感じたら、長く続けられる運動を一つ見つけ、一日1分、2分でもいいです、それを続けてやる努力が必要です。逆に体力を大量に消耗する仕事をしているなら、意識的に体を休め、睡眠を普通の人より多く取らなければなりません。
まず数回に分けて、糖尿病と鍼灸治療との関係をみていきます。
一、糖尿病
1、糖尿病は生活習慣病なのか
糖尿病にはⅠ型とⅡ型があります。Ⅱ型は典型的な生活習慣病です。妊娠糖尿病もありますが、産後血糖が正常に戻るのはほとんどですので、ここでは特別に言及しません。
Ⅰ型は自己免疫疾患で、遺伝的な要因が強いです。生活環境の変化・感染症など何らかの誘因でTリンパ球は膵島(膵臓にある血糖調節を行う内分泌組織)のβ細胞(インスリンを合成・分泌する細胞)を攻撃して、インスリンの産生ができなくなる病気です。ほとんどは子供の時から発症し、年齢とともに進行して体外からインスリンの補給が必要となります。そのため、インスリン依存性糖尿病ともいわれます。
Ⅱ型は生活習慣病で、インスリンを分泌できますが、効きにくく、インスリン抵抗性を示しています。糖尿病の9割はⅡ型で、食事、運動、睡眠、ストレスと密接な関係があります。今は美味しい食べ物が豊富に揃える時代で、通信・運送を含めた生活インフラの整備・格段な進歩により、我々の生活・仕事様式も様変わりになってきて、一日座っているだけでも、生きていく上では何の支障もなくほぼすべてのことが間に合ってしまいます。年配の患者さんから、子供の頃に学校に持っていくお弁当は、小さなジャガイモ3個だけで、片道40分ぐらいかけて歩いていたという話を伺ったことがあります。この時代はⅡ型糖尿病になることが非常にまれで、糖尿病の患者さんがいるとしたら、Ⅰ型糖尿病がほとんどだと思います。つまり、現代の高カロリー食事と運動不足のアンバランスで、Ⅱ型糖尿病を招いてしまうケースが多いです。そこで、睡眠不足や強いストレスが加わると、余計に発病・進行しやすくなります。
2、グルコースホメオスタシス
血中を流れているグルコース(ブドウ糖、単糖類)の量は常に一定にされています。それは、肝臓でのグルコース産生と筋肉や脂肪組織への取り込みと利用バランスがとれているためです。血中グルコース恒常性(ホメオスタシス)につとめているのはインスリンとグルカゴン(インスリンと拮抗作用を持つ)などのホルモンです。実際、人体においては血糖値を下げるホルモンはインスリンのみで、逆に血糖値を上げるホルモンはグルカゴン以外に、アドレナリン、コルチゾールなどがあります。
実際、人体においては血糖値を下げるホルモンはインスリンのみで、逆に血糖値を上げるホルモンはグルカゴン以外に、アドレナリン、コルチゾールなどがあります。インスリンの作用は以下の通りで、特に高血糖を防ぐ作用が重要です。
①グルコースの骨格筋・心筋細胞、脂肪細胞への輸送量を増加させる。
②脂肪細胞の脂質合成を促進、脂質分解を抑制する。
③たんぱく質の合成を促進、たんぱく質の分解を抑制する。
④肝臓でのグルコース産生を抑制する。空腹時、グルカゴンの分泌がグリコーゲン(貯蔵型多糖)の分解を促進し、グルコース生成が増え、低血糖を防ぐ。食後、インスリンの放出が上昇し、血中グルコースをグリコーゲンに合成して肝臓に貯蔵させ、高血糖を防ぐ。
⑤特定細胞の増殖・分化を促進する。
余談ですが、上の②で示したように、血糖値が上がれば、インスリンの働きで中性脂肪に変えられ、脂肪細胞に蓄えられます。血液検査で中性脂肪値が高いと出れば、ブドウ糖を多く含む甘いものの摂取をまず控えめにしたほうがいいです。
次回はⅡ型糖尿病発症のメカニズムをみます。
昼間の空が高く感じます。
今月3日に治療院の窓から摂った写真で、夕日が消えた直後の空です。写真のままの色合いで、思わず息をのんだ美しさです。遠くの秩父連山が見え隠し、時間が経つに連れ、あたりが次第に黒に飲み込まれていき、束の間のショーが幕を閉じたように。
このシリーズの内容は当治療院の許諾を得ないで無断で複製・転載した場合、当治療院(=作者)の著作権侵害になりますので、固く禁じます。