どうして鍼灸は効くの(76)?
今回は骨粗しょう症に関わる骨代謝に対する鍼灸治療の影響をみます。
4、鍼灸の骨代謝に対する影響
近年、人口の高齢化に従って骨粗しょう症(OP)の患者数は世界中で増えています。鍼灸がOPの予防及び治療にどのように役立てるか、積極的に臨床実験が行われてきました。いくつか紹介させていただきます。
江西省衛生庁の重要研究項目として江西中医薬高等専門学校は、2007~2009年の間で45~70歳(男性22、女性38人)のOP患者を灸治療組(30人)と薬物療法組(30人)に分けて、治療効果を観察しました。灸治療組は棒灸でツボを温めて、一日1回、10回で1クールとし、3日を休んでからまた治療を再開し、全部で9クールを完成しました。薬物療法組も90日で薬を飲みました。観察データは、両組治療前後の腰椎(L2~L4)の骨密度(BMD)、血清骨型アルカリホスファターゼ(骨型ALP)、尿中のカルシウム/クレアチニン(U-Ca/Cr)*7値の三つです。
その結果、骨密度については、灸治療組は有意に増加しました。薬物治療組も服薬前よりやや上昇したものの、統計学的意義はありませんでした。骨型ALPについては、灸治療組は有意に下がり、破骨細胞の骨吸収作用が低下したと考えられますが、薬物治療組の骨型ALP降下作用は見られませんでした。U-Ca/Crについては、灸治療組は有意に下がりましたが、薬物治療組はやや降下したものの、統計学の意義はないそうです。
結論としては、棒灸の温熱刺激は骨粗しょう症治療や予防に有効性があると見られています。
また、中国広東省にある曁南大学第二臨床医学院付属新圳市立病院は骨粗しょう症のモデルラットを作り、鍼の治療効果について研究した試験は以下の通りです。
この病院は60匹の生後6ヶ月の健康なメスラットに対し卵巣摘出手術をしてから、標準飼料(カルシウム0.6%、りん0.4%)を与え、90日を飼育した後、骨粗しょう症モデルを作りました。これらのモデルラットを鍼治療組と対照組に分け、治療組は1日1回30分の鍼を、6日の治療を続けた後に1日を休み、また治療を繰り返し、全治療コースを12週としました。対照組は鍼治療をせずに普通に飼育していました。全治療コースが終わった直後に両組の血液検査をし、尿中のカルシウム、リン、DPDを、血中のE₂(estradiol エストラジオール)*8、ALP、BGP(オステオカルシン)*9、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、ICTP、PICPを測定し比較しました。具体的な数値を省略させていただきますが、結果は次の通りです:
鍼治療組の尿中カルシウム・リンの排出量がモデル組より有意に減少し、DPD値もモデル組より有意義に低下し、鍼刺激で骨吸収のスピードがコントロールされたと考えられます。モデル組と比べ、鍼治療組の血中E₂は著しく上昇し、ALPとBGPは共に下降し、TNF-α値もかなり下がりました。TNF-αは破骨細胞の生成・活性化を誘導する作用があり、腎臓尿細管のカルシウム・リン再吸収機能を低下し、尿中への排出を増加させる作用があります。TNF-α値の低下は骨吸収の緩和、骨基質の形成に有利です。また、鍼治療組はモデル組よりICTP値は低下し、PICP値は上昇しました。ICTPは骨吸収マーカーで、PICPは骨形成マーカーですが、総合的に判断してみると、破骨細胞による骨破壊活動は低下となり、骨芽細胞による骨新生は活発に回復されたと考えられます。
もう一つ、山東省徳州市医学科学研究所付属病院での臨床治験です。骨粗しょう症の外来女性患者(45~60歳、閉経年数1~5年)112人を鍼治療組(56人)と、治療薬剤を服用する薬物療法組(56人)に分け、鍼治療組は1日1回、15日を続けて治療した後、1~3日を休んでから治療を再開します。鍼治療している間は薬剤を一切飲みません。治療期間は両組とも3ヶ月に設定しました。治療コースが終わった後に、両組の女性ホルモン値(E₂)、骨密度、治療の有効率を比較しました。
両組の血中E₂値は共に上昇しましたが、薬物療法組(45.19±5.36から69.89±5.89ng/Lに上昇した)は鍼治療組(45.11±5.63から61.76±5.51ng/L)より改善率がやや良いですが、薬の副作用を考えれば、副作用のない鍼治療のほうがより安全で且つ有効です。骨密度については両組ともに改善されましたが、鍼治療組は薬物療法組よりやや良いです。有効率からみると、鍼治療組の有効率は96.4%、薬物療法組は75.0%でした。
以上の動物実験および臨床治験から、鍼灸治療は骨粗しょう症の予防と治療に対する有効性が示唆されています。当治療院へ健康増進の目的で定期的に治療に来ている中高年の患者様は、ほとんど病気せずに、少々体調が崩れてもすぐに回復する方が多いです。中には長年免疫抑制剤を服用しても、薬の副作用である骨粗しょう症の発症にならず、定期的な骨密度測定はむしろ同年代の平均より高い水準を保っておられます。一般的な統計データ(中高年の半数は骨折か、あるいは骨にひびが入るという経験がある)から考えれば、ずっと理想的な健康状態を維持できています。
*8 E₂(estradiol エストラジオール):女性ホルモン(エストロゲン)の代表としてエストロン、エストラジオール、エストリオールという三つがあります。E₂は生理活性がもっとも高く、卵巣機能を評価する重要な指標です。
*9 BGP(bone GLA protein 別名オステオカルシン):ビタミンK依存性たんぱく質で、ビタミンKの作用で骨芽細胞により合成され、骨基質の非コラーゲン性タンパクの25%を占めるカルシウム結合タンパクです。血中値の動態により骨代謝の指標とされます。高値の場合は高代謝回転型骨粗しょう症、低値の場合は低代謝回転型骨粗しょう症と考えます。
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