どうして鍼灸は効くの(72)?
今日は股関節の鍼灸治療を考えます。
五、股関節の病気
脚の付け根に違和感・痛みを感じたり、太もも、腰やお尻あたりにだる重く、痛く感じたりします。時々腰が悪いと間違えることがありますが、実は股関節の問題である可能性があります。
股関節は大きな負担のかかる関節の一つで、激しい運動や日常生活での使いすぎ、加齢、悪い姿勢などによる痛みを起こしやすいです。特に女性の場合、先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全が多く見受けられます。これは妊娠・出産に備えるための骨盤の形状や股関節を支える筋肉が男性より弱いのが原因の一つではないかと言われております。西洋医学の治療は抗炎症剤、鎮痛剤、ステロイド剤などの薬物療法、手術、人工関節(寿命は20-30年)置換術があります。
股関節の初期変化はほかの変形性関節症と同じように、まず関節軟骨の変性・すり減りから始まりますが、自覚症状はほとんどないか、あるいは脚の付け根の違和感・だるさ・重さを感じるくらいです。進行すると軟骨の磨耗が進み、関節の隙間がさらに狭くなり、軟骨下の骨組織の変性も現われ、痛みを強く感じるようになります。関節軟骨の減りがさらに進行してほとんどない状態となると、関節を構成する骨間の隙間もなくなり、骨と骨とが直接ぶつかり合い、骨の変形はひどくなる場合は立てない、歩けないほど痛みが激しくなり、夜間も痛みで眠れないことがあるでしょう。
当治療院の臨床経験から感じたのは、初期の場合に鍼灸治療すれば、1、2回で自覚症状はなくなります。その後定期的に治療すれば自覚症状はほとんどなく、普通の生活に支障はありません。進行期の場合、持続的に治療すれば自覚症状は徐々に改善し普通の生活に戻れます。末期になってからはじめて鍼灸治療を受ける方の治療効果は弱く、やむをえず人工股関節置換手術など手術に踏み切ることが多いです。
鍼灸症例は2016年7月に書いたブログをご参照いただければと思います。このブログの中で紹介させていただいた、30数年前から変形性股関節症を発症した女性の患者様は、今は生活習慣病の予防・健康増進のために、既に20年以上定期的に鍼灸治療に通われています(現在は80代)。毎回股関節症の治療も必ずやらせていただいているため、今も薬の服用はなく、かつて病院で薦められた人工股関節への置換手術も必要ないぐらい、日常生活の支障はなく、杖は途中から要らなくなり、スポーツクラブ、ゴルフを毎週楽しんでいるそうです。
変形性股関節症の初期や進行期の鍼灸治療効果は確実です。その機序は次となっています:
①マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)ファミリーの1と3の働きを抑制し、組織性メタロプロテアーゼ阻害因子(TIMP)*4の発現を促進します。関節軟骨におけるMMPの過剰活動を抑制することによって、進行性の軟骨破壊を止めます。
②成長因子や熱ショックたんぱく質の表出亢進により、軟骨代替組織の再生を促進し、関節周囲の筋・靭帯などを強化して股関節を補強します。
③鍼の機械刺激及びお灸の温熱刺激によって股関節周囲の血流を改善し、軟骨・筋・結合組織などの代謝は改善され、損傷組織の修復に必要な栄養素も十分に患部に届けられるようになります。
④鍼灸の鎮痛作用で痛みを和らげ、運動療法もスムーズに実行できるようになります。適切な運動療法で股関節周囲の筋肉が鍛えられ、血流がよくなり、関節の痛みはさらに軽くなります。
*4 組織性メタロプロテアーゼ阻害因子(TIMP):マトリックスメタロプロテアーゼ阻害因子(MMP阻害因子)でもあります。MMPと複合体を形成することにより、MMPの活性を抑制し、過剰なMMPによる関節軟骨破壊を防ぎます。MMP/TIMPのバランスは関節軟骨の再生と破壊のバランスを保つために重要な働きをします。
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