どうして鍼灸は効くの(63)?
本日からは鍼灸臨床篇に入りまして、少しずつ具体的な症例を見ていきます。
第1章 鍼灸臨床の実態
一、患者さんの話を最もよく聴くのが鍼灸師です。
医師と看護師の慢性不足で一般病院では長く診察時間を取れません。待ち時間はともかく、実際の診療時間は不本意でありながら数分間で終わらなければならないケースはあります。それに対して鍼灸臨床の治療時間は治療院によって違いますが、大体30分~90分かかります。また治療内容によって2時間以上にかかることも珍しくありません。治療している間、鍼灸師と患者さんの間に様々な会話が行われており、患者さんからの様々な質問にも答えます。
例えば:
○病院で担当医師に言えないことを鍼灸師に言うケース:
患者さんは病院外来で担当医師に話したいことはいっぱいありますが、言う時間はない、或いは遠慮して言えない場合です。遠慮する理由は先生が忙しくて、つい口まで出かかっている言葉を飲み込んでしまいます。患者さんは先生に聞きたいことは、自分で感じたつらい症状、なぜこの病気にかかったのか、自宅で何に気をつければいいのか、食事や家庭環境の注意点、運動のやりかた、いつから運動してもかまわないのか、家族にうつらないか、処方された薬のこと等々、不安やわからないことです。鍼灸治療院では患者さんはこれらのことを鍼灸師に聞くことはけっこうあります。
治療する1時間あまりの間、鍼灸師は患者さんからのご質問にできる範囲で答え、なるべく患者さんの不安を取り除きます。患者さんは鍼灸師の説明に納得できれば安心し、今後の治療・生活の見立てがより具体的に描けるようになります。それだけでも症状は半分軽快することがあります。もちろん、鍼灸師は医師でも薬剤師でも看護師でもありませんので、自分の限られた権限を越えて無責任なことは言えません。
一つの例を挙げてみましょう。当治療院へ時々おなかや太ももの付け根(そけい部)が痛くて、歩きづらい患者さんは訪れて来られます。病院で検査や画像診断を受けましたが、異常は見当たらないと言われることがあります。原因不明ですので治療法は鎮痛剤と湿布薬になります。しかし痛みはいっこう軽快にならなく、ある患者さんは自分が癌になったのではないかと不安な毎日を過ごしておられ、これ以上病院で問い詰めてもわからないものはわからないだろうと思われたそうです。うちでの診断は腸腰筋(胸腰椎・骨盤の腸骨から大腿の小転子までの筋肉)の損傷による疼痛や機能障害の疑いで、東洋医学の診断名は、肝腎陰虚による痿症です。その原因を説明したら患者さんはだいぶ安心した様子でした。数回の治療で痛みはなくなり、歩いても走っても痛くないようになりました。腸腰筋はお腹深いところにある筋肉で、損傷があっても画像の種類によっては全く映りません。或いは画像に映る検査を選んでも損傷レベルが低ければ画像上確認できない場合があります。画像と患者さんの自覚症状が一致しないケースです(一致しないのはよくある話で、むしろ臨床上多いことです)。診断名はつかないため、痛みの原因は他にあるのではないか、一生このまま耐え続けないといけないのか、もっと深刻な病が背後に隠れていないか、もしくは自分は精神的におかしくなっているのではないかとか、患者さんの悩みがどんどん膨らんでしいきます。
○病院で教えてもらえないことを鍼灸師に聞くケース。
小さいながら不快な自覚症状から深刻な病まで、患者さんは知りたくて、教えてもらいたいことはたくさんあります。しかし、町の診療所から大病院まで、とにかく待っている患者さんが多く、医師たちは忙しいです。日本人は遠慮しがちで、人様にご迷惑をかけてはいけないという国民性がありますので、つい満腹の疑問や不安を抑えて、とうとう何も聞けずに家に戻ってしまいます。これは患者さん側の問題ですが、医療機関側にも問題があります。医療関係者はみんな「誠心誠意に患者に奉仕する」という教育を受けた上、日本の医療技術と「国民皆保険」という医療保険制度は世界的に見ても素晴らしく、医師や看護師、薬剤師などの医療従事者たちは患者さんに対して優しく、気配りが効いています。日本に住んでいれば当たり前だというこれらの医療サービスが一旦海外の病院でお世話にならなければならない時に、その違いがわかり、「あぁ、日本人で日本に住んでいて本当に幸せ!」と実感できるかと思います。しかし、先ほどの話に戻りますが、医師たちはとにかく毎日忙しく、患者さんとの対話が必要以上に少ないケースはあります。病気は患者さんの心身に起きている問題で、病気について患者さんはもっと知る権利はあります。病気を治すのは医療側と患者との共同作業で、患者さんの協力が当然必要です。病気にかかった原因、病気を治すために患者さん側で注意すべきこと、やってはいけないこと、日常生活はどのようにしたらよいかなど、生活指導まで患者さんと話し合う責任があると思います。また、自分の病気を医療機関に丸投げしてしまう患者さんの意識改革も含めた啓発作業も時には発生するかもしれません。これらのことを患者さんは知っていると知らないとでは、治療効果、服薬期間、予後は全く違ってきます。
「国民皆保険」の話が出たため、一言を言いたいです。素晴らしい制度ですが、当初からだいぶ時代が進み、今の実情に合うような、若い世代を苦しめないようなやり方に今こそ、変革しなければならないと切に思っております。
○家族や友達に言えないことを鍼灸師に話すケース。
家族に心配させたくない、子供に負担をかけたくない、友達に迷惑をかけたくないけど、だれかに相談したい、話したいときは、鍼灸師は最も良い話し相手になる時があります。治療している間に、患者さんからいろいろ話しかけられます。ご自分の病気のことだけでなく、ご家族の健康状態、お友達の病気、雑誌・テレビなどの健康情報、健康以外の悩み・不安・疑問、話の内容は実にさまざまです。
患者さんはいろいろな話を遠慮なくできるのは、まず鍼灸師は「他人」であるということです。ご自分とその周りとまったく関係のない第三者なので、逆に話しやすいという側面があります。また、治療院は患者さんの個人情報を守る義務があるため、安心して話せます。患者さんは愚痴をこぼしたり・悩みを言ったりするのは、必ずしも鍼灸師に答えを求めたいわけではなく、とにかく聞いてもらえば良いという時があります。ご本人は「つまらない話をした」と言いますが、この“つまらない話”を言っただけで、重い荷物を降ろしたかのように、こころが幾分軽くなります。
先月6日の雪を懐かしく思います。今年の冬は長く、厳しく感じます。
この写真は4年前の大雪です^-^。
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