症例紹介:肺MAC症の鍼灸治療
こんにちは。渋谷区幡ヶ谷の胡鍼灸治療院です。
最近のコロナ禍の中、副作用のない鍼灸治療によって如何に免疫力を上げ、コロナウィルスなどによる感染症にかからないか、或いはかかったとしても重症化を防げるかの話をしてきました。今日は別の、免疫力の低下による呼吸器系の病気 ― 肺MAC症に対する鍼灸治療の実際の症例を取り上げます。
肺MAC症は主に免疫力が低下した時にかかる呼吸器系の病気です。症状としては、長期に渡る咳(せき)と痰(たん、時には血液が混じることもあります)で、発熱、倦怠感、呼吸困難などです。肺MAC症は「肺非結核性抗酸菌症」ともいい、この病気の8割を示す原因菌であるMAC菌というのは病名の通り、結核菌ではない抗酸菌に一種で、人→人への感染はありません。
MAC菌は土、水など我々が住む環境に広く分布する弱い菌で、園芸の土、水道水などにも存在します。つまり、すべての人が日常的にMAC菌に接触しておりますが、一部の方だけが発症してしまいます。発症原因はまだわからない部分が多いですが、慢性肺疾患の持病のある方や免疫力の低下が指摘されております。治療法はまだ確立されておらず、通常3-4種類の抗菌薬を2-3年間も飲み続ける必要がありますが、再発・再感染も含め、完治することは難しく、病院で「一生治らない」と言われる方も多いかと思います。薬の副作用で治療を中断せざるをえないこともあり、この病気による死亡者数は年間1300人以上(日本)です。患者さんの中で急速に病状が悪化する方もいれば、自覚症状が最初から軽くて経過観察のみで数十年も状態を維持できている方もいて、様々です。
さて、以下にうちの患者さんの治療症例をご紹介いたします。
患者さん:
60代女性Aさん、専業主婦、やせ型。
初診時主訴:
2019年5月に風邪を引き、38℃前後の熱と激しい咳(血痰もあり)が2週間ぐらい続きました。普通の風邪ではないかもしれないと思い、風邪薬をもらっていた地元のクリニックに紹介してもらい、総合病院呼吸器科を受診しました。肺のCT検査と喀痰培養検査を受け、右肺に空洞(肺に穴が開き、たくさんあると呼吸困難になる)を確認でき、最終的には肺MAC症と診断されました。すぐに多剤抗菌剤による治療を始め、約5か月間の薬物治療を経て、自覚症状は改善されました。それから1-2年薬を飲み続ける必要があると言われましたが、薬の副作用のほうが目立ち始め、皮膚に出る皮疹のかゆみ、視力低下、白血球減少が起こり、血痰が再び出るようになったため、主治医の先生に相談したのですが、薬の減量や中断すると再び悪化する可能性があり、最悪肺の一部を手術で切除しなければならないと言われたそうです。困ったところで、ご知人の紹介で2019年11月末からうちで鍼灸治療を受けることとなりました。
当院治療方針:
①免疫力向上、自覚症状の改善
②薬による副作用の軽減
③精神状態を楽にし、自律神経のバランスなどからだ全体のバランスを整える。また食欲、体重、体力を回復させる。
治療結果:
一か月半の治療を経て、胃腸の調子がよくなり、食欲も増してきました。この頃から血痰は無くなり、咳の頻度も減りました。四か月後、体重が1.5キロ増え、咳はほとんど出なくなりました。精神状態がよくなり、体力と気力も病気する前の状態まで回復してきました。CT検査で肺の空洞はかなり縮小したと言われました。白血球の数が正常範囲に戻り、その他の薬による副作用も緩和できたそうです。元々薬を止めたいというAさんのご意向もあり、現在薬をやめ、定期的に病院でレントゲン検査、CT検査と血液検査のみをしてもらっているそうです。
当院の治療方針に沿った結果が出せて、ほっとしております。治療薬に関しては、鍼灸師の立場上、患者さんに進言することは一切できませんので、あくまでも患者さんのご意向、そして処方する病院の先生の判断になりますが、このような慢性的な疾患で、特効薬もない難しい治療に関しては、肺や気管支を侵す細菌の増殖を抑え、患者さんご自身の免疫力を上げるのは一番の治療だと言える中、鍼灸治療の力を借りるのも一つ賢い選択肢です。
肺MAC症は完治が難しいと言われますが、まずご自身の免疫力を上げて、そして高い免疫力の状態を維持できていれば、完治は夢ではないと思います。うまくこの病気と共存しつつ、そしていつかは打ち勝つつもりで、良い心理状態、前向きの気持ちがとても大事です。Aさんは今も2週間に一度鍼灸治療を続けておられますが、ご本人は既になんの自覚症状もなく、普通の生活に戻っておられますので、検査結果次第で治療を終了する日もそう遠くないと思います。
夏ですね!
道端で動けなくなったクワガタをうちに連れ帰り、ベランダで蜂蜜やジャムを食べさせました。三日ぐらいで姿が見えなくなり、どこかへ飛んでいったでしょうか。