どうして鍼灸は効くの(38)?
前回の話の内容である「内臓反射」に関連して、まず循環系に鍼灸治療による内臓反射がどう影響するのかを見ます。
(1)循環系に対する調節作用
① 心機能に対する影響
以前のブログで関連痛の話をしたことがありますが、心臓痛の左腕内面への投射は典型的な例です。またこの投射部位はちょうど経絡の「手の厥陰心包経」、とくに「手の少陰心経」の流注と一致していることが明確です。心疾患によく使われる内関穴、神門穴などに刺鍼すると、心拍数の減少、心収縮力の増強、冠状動脈血流の増加、期外収縮・心房細動などの不整脈の減少あるいは消失などの効果が得られます。このような治療効果は上脊髄反射によるものが多いと思われます。
心包経の所属する皮膚分節は脊髄神経の第6頸神経と第2胸神経の間(C6〜T2)、心経の皮膚分節は第6頚神経と第3胸神経の間(C6〜T3)、心臓を支配する自律神経は副交感神経の迷走神経と第1胸髄から第4胸髄までの側角に発する交感神経です。心包経と心経の皮膚分節は心臓の交感神経節前ニューロンに発する胸髄レベルと一部重なっています(T1〜T3レベル)。心経、心包経のツボに刺鍼する時、刺入の深さ、刺激の強弱によって違う反応が出てきます。刺鍼してから強く刺激すれば(瀉法)、脊髄反射によって交感神経が興奮し、心収縮力が増強、心拍数が速くなります。受容器の豊富な皮下組織まで刺して軽く優しく刺激する(補法)と、上脊髄反射によって副交感神経が優位になり、心拍数が減少します。
② 血管に対する影響
強い刺激で血管の収縮反応が出現しますが、弱い刺激なら血管が拡張するようになります。刺鍼の場合、直後に血管が収縮しますが、時間が経つにつれ収縮した血管が反動的に拡張します。このような血管反応も自律神経活動の反射性変化を介して現れてくるものです。昔から鍼灸臨床において、自律神経の緊張性を調整することによる冠状動脈や脳血管の拡張や心・脳虚血状態の改善効果を活用して、狭心症・脳梗塞などの治療は行われていました。
③ 血圧に対する影響
鍼を浅く刺鍼し手技を施して患者さんがある程度の刺激を感じると血圧が上がります。これは脊髄反射によって交感神経は興奮し心筋の収縮が強くなり、血管の平滑筋が緊張する結果です。昔中国で、西洋医学がまだ発達していなかった時代に血圧を上げるために鍼が多いに活躍していました。たとえば、アレルギーによるアナフィラキシーショック、感染症による中毒性ショック、精神的なショックによる失神、熱中症による意識喪失、パニックによる失神や各種原因の低血圧や脳虚血などの治療には鍼が最も威力を発揮してきました。西洋医学の発達している現在でも、身近に誰かが突然失神して倒れると、周りの人たちはすぐ鼻の下にある水溝穴を鍼の代わりに爪で強く刺激して、意識を回復させるのは庶民の常識になっています。
現在の鍼灸臨床では、血圧を上げる治療よりむしろ高血圧症の患者さんの血圧を下げる治療が多いです。いくつかのメカニズムで鍼灸は血圧を下げる作用があり、それについて後文でまた述べます。ここで言っている降圧作用の一つの機序は上脊髄反射にかかわるものです。臨床で降圧によく使われているツボはいくつかがありますが、すべて副交感神経を優位にさせ、交感神経の緊張性を抑制する効果があります。
同じツボに刺鍼し、血圧を上げることも、また下げることもできます。これは鍼灸分野で「良性調整作用」といわれています。不思議に思われるかもしれませんが、鍼の刺し方、刺激する技法、置鍼時間によって、二種類の自律神経をどちらに優位にさせることによって、生じる治療効果は違ってきます。
次回は呼吸器系に対する影響を見ます。
食べる菜の花を水に挿したら、こんなに咲きました。初めて気づきましたが、菜の花って力強い香りがありますね。
春の花が続々と。
冬越スズメは可愛いです。体は小さくても負けずに生き抜いています。
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