どうして鍼灸は効くの(37)?
前回は脊髄反射の体性反射を書きましたが、内臓反射に関しては今日から数回に分けてお話します。
(2)内臓反射
心臓、血管、消化器、呼吸器などの内臓を支配する神経は自律神経ですので、体性刺激(皮膚、皮下組織、筋、腱、関節などに対する刺激)により起きる内臓の反射は体性―自律神経反射ともいいます。
体性―自律神経反射の特色としては、①脊髄反射によるものと②上位中枢神経である脳幹に統合されて自律神経を介して内臓反射を起こす上脊髄反射によるもの、と大別される。この概念を理解するためには、まず自律神経系の構成と作用を簡単に紹介させていただきます。
自律神経は交感神経系と副交感神経系から成ります。両神経系の神経細胞体がともに中枢神経系にあります。細胞体から出る神経線維が効果器までに神経節でシナプスを介してニューロンを交換しますが、神経節まで到着する線維は節前線維、神経節から出る線維は節後線維といいます。両神経系の節前線維末端から放出される神経伝達物質はともにアセチルコリン(Ach)ですが、節後線維末端から放出される神経伝達物質は、交感神経はノルアドレナリン(NAd)、副交感神経はアセチルコリンと違ってきます。
交感神経の節前線維は第1胸髄から第2(或いは3)腰髄までの脊髄側から起始するため、胸腰系と言われ、副交感神経は脳幹から発する動眼神経、顔面神経、舌咽神経、迷走神経という4本の脳神経と第2-4仙髄から発する骨盤神経から構成されるため、頭仙系と呼ばれます。両神経系の内臓に対する作用は簡単にまとめると、次の表となります。
表4 交感神経と副交感神経の主要内臓に対する作用
効果器 | 交感神経 | 副交感神経 |
心臓 | 心拍数増加 収縮力増強 | 心拍数減少 収縮力減弱 |
血管 | 収縮 | 拡張 |
気管支 | 筋弛緩(気道が広がる) | 筋収縮(気道が狭くなる) |
肝臓 | グリコゲン分解 | グリコゲン合成 |
胃腸 | 平滑筋弛緩 括約筋収縮 | 平滑筋収縮 括約筋弛緩、消化液分泌 |
膀胱 | 排尿筋弛緩 括約筋収縮 | 排尿筋収縮 括約筋弛緩 |
上記のように、交感神経系と副交感神経系の内臓に対する働きはほとんど拮抗的です。
以前のブログに皮膚分節の話がありましたが、体性感覚の受容器はニューロンの神経終末で、ニューロンの細胞体は脊髄後根神経節もしくは脳神経の神経節にあります。後根にある感覚神経によって支配される皮膚の領域を皮膚分節(デルマトーム)です。鍼の機械刺激とお灸の温熱刺激が感覚神経終末を興奮させ、インパルス(活動電位)は後根から脊髄に入り、同じ脊髄断層の側角にある自律神経のニューロンをも同時に興奮させ、その神経に支配される内臓の反射を引き起こします。この内臓反射を脊髄反射に属します。
一方で、頚髄と下部腰髄には自律神経の節前ニューロンが存在していないので、脊髄分節性の反射は起きません。手と足に鍼灸刺激を与えると、感覚神経の求心性入力は脊髄に止まらずに上行し続き、脳幹で信号が統合された後、また自律神経を介して内臓反射を起こします。このような反射を上脊髄反射というが、実際に鍼灸治療における体性―内臓反射は上脊髄反射によるものはとても多いです。この反射がおきるからこそ、経絡に伝わる鍼灸の刺激により内臓に対しても様々な治療効果が得られるわけです。
次回からは個別の体内システム、まず循環系(心臓血管系)に対する調節作用を見ていきます。
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