どうして鍼灸は効くの(34)?
今日は引き続き鍼灸による血管拡張作用を見ます。シリーズ32回の内容を思い出しながら別の角度から考えます。
(5)灸の温熱効果による血管拡張作用
鍼灸治療院のお灸は有痕灸と無痕灸の二種類に分けられます。有痕灸は皮膚の上に直接艾(もぐさ)を置いて火をつけ、皮膚がやけどになるためある程度の痕が残ります。昔、各家で自家製のもぐさを使って自分で据えたお灸はほとんどこの種類でした。現在、有痕灸をする治療院は激減し、お灸の治療をしてくれる治療院でも使っているお灸はほとんど無痕灸です。皮膚に灸痕を残さずに、気持ちの良い熱さを感じるくらいの灸です。皆さんがよく言っている温灸はこの種で、製造会社によってさまざまな形の温灸が開発されております。
有痕灸にしても無痕灸にしても、目的は一つだけで、皮膚に温熱刺激を与えることです。皮膚に温熱刺激を加えると、施術された局所の毛細血管と細動脈(抵抗血管)、細静脈(容量血管)、また動・静脈吻合部の血管は拡張するだけではなく、からだの他の部位の血管も反射的に拡張します。そのメカニズムは二つ考えられます。一つは、施灸された局所の血液は温められ、その血液は体性循環により脳の視床下部に到達します。視床下部に中枢温度受容ニューロンがあり、常に血液の温度を検知しています。お灸で温められた血液は視床下部の前方にある熱発散中枢を刺激し、反射的に全身の血管は拡張するようになる。もう一つは、皮膚にある温度受容器は温熱の刺激を受け、自律神経反射(体性自律反射、2016.3.18のブログ「どうして鍼灸は効くの(3)?→鍼鎮痛③:体性-自律反射」をご参照ください)によって皮膚や深部までの血管が拡張されます。そのため、腹部や四肢の数ヶ所だけにお灸しても、からだ全体の血流は良くなり、ポカポカと暖かく感じます。
(6)軸索反射による血管拡張作用
実は既に2015年11月15日と2015年12月16日の二回に渡り、ブログ「どうして鍼灸は効くの(1)?→鍼鎮痛①:軸索反射」および「どうして鍼灸は効くの(2)?→鍼鎮痛②:骨格筋内の軸索反射」でこの話題に触れております。
神経細胞(ニューロン)は、細胞体と細胞体から出た複数の樹状突起および1本の主要な突起である軸索からなっています。樹状突起は他のニューロンからの興奮を受容しますが、軸索は枝を出して細かく分枝して終末部となり、神経細胞の興奮を他のニューロンや筋細胞などに伝達します。
通常、皮膚などにある受容器は刺激を受けると興奮が起こり、求心路、反射中枢、遠心路、効果器という反射弓を形成します。ところが、軸索反射はこういう反射経路に因んで発生するのではありません。鍼灸を用いて皮膚と皮下組織を刺激すると、刺激を受けた箇所の周囲が赤くなります。これは、皮膚・皮下組織などにある受容器(感覚神経細胞)は刺激を受け、興奮インパルスを軸索伝導により脊髄の後角に到達し、終末からCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)とサブスタンP(P物質)という神経伝達物質を放出します。同時に、軸索分岐部から刺激を受けた箇所の血管にも枝を出して、その分枝終末から同様にCGRPとサブスタンPを放出するため、血管拡張が生じます。
軸索反射により筋内血管が拡張して筋血流が改善されることは、モルモット実験で検証されました。モルモットの足筋肉を実験薬で強く収縮させて血流を減少させ、鍼刺激を与えると血管が拡張し血流が正常に戻っていってと観察されました。
血管の神経支配は(唾液線、汗腺、膵臓の外分泌腺、外生殖器を除く)交感神経の支配になっています。交感神経終末から放出する神経伝達物質は、アドレナリン(A)・ノルアドレナリン(NA)(アドレナリン作動性)とアセチルコリン(ACh)(コリン作動性)の2種類がある。アドレナリン作動性神経線維終末を受ける血管の受容器は、またαとβ二種類があります。α受容器の興奮は血管を収縮させます。α受容器は脳血管と心冠状血管に比較的に少ないですが、全身の細動脈には最も多い。コリン作動性神経線維は骨格筋の細動脈に広く分布し、血管拡張作用を持つ、筋血流を増加させる役割があります。
モルモットの足筋肉の血管が拡張して血流がよくなったのは、鍼刺激で引き起こしたインパルスが軸索反射によって、分枝終末からCGRPとサブスタンPを放出させ、筋血管にあるコリン作動性神経線維終末に作用して、アセチルコリンを放出させ、血管の受容器がそれを受け入れ血管が拡張したと考えられています。
このように、鍼灸の刺激による軸索反射は、皮膚・皮下組織だけではなく、筋組織などの血流改善にも強く関与しています。