どうして鍼灸は効くの(21)?
こんにちは。今日から三回に分けて興味深いと感じたいくつかの「経絡」の仮説をお伝えします。
四、ではいったい、経絡は何なのか
以上のように、いろいろな視点や手法で経絡現象は検証されていますが、結局経絡はどんなものなのか、その本質はいつになったら完全に解明できるのか。近年、各国で専門家たちは熱心に探求し、いくつかの仮説が提唱されています。次に紹介させていただきます。なお、このシリーズはあえて成り立ちの全く違う2つの医学-東洋医学を西洋医学の理論で説明しようというスタイルを取っていますが、この発想の性質上、単独な基礎論理でぴったりと証明式に当てはまるものを探すこと自体が牽強かもしれません。しかし、今年4月28日のブログに書かせていただいた通り、このプロセスは現代における東洋医学の普及と更なる発展にはどうしても必要で、意味がある以上、自然の成り行きでこのシリーズを立ち上げたわけであって、まだ道半ばですが、読者の皆様も各国の医薬学者と臨床医たちの熱心な研究結果にドキドキ、ワクワクな気分になれたらと願いつつ。。。
さて、まずは
(1)結合組織関連仮説
人体の基本構成単位は細胞です。特定の構造と機能を持つ細胞の集まりは組織です。数種類の組織が集まって器官を形成します。組織は機能の違いによって、上皮組織、支持組織、筋組織、神経組織と大別されます。支持組織は細胞と大量の細胞間質から構成しますが、種々な細胞・組織をつなぎ合わせて、身体の各部位・各器官を支える機能につとめます。支持組織には結合組織、骨組織、軟骨組織、血液、リンパが含まれています。
結合組織は体内に広く分布し、存在していないところはありません。結合組織のことを線維組織と理解してもよいくらいに、形と性能が違う膠原線維,細網線維、弾性線維などから構成されています。結合組織の組成要素は各種類の線維以外に水分(組織液)、糖たんぱく、ヒアルロン酸・コンドロイチン硫酸・へパリンなどの無定形質と結合組織細胞(線維芽細胞・大食細胞・肥満細胞・形質細胞・脂肪細胞・色素細胞・リンパ球・好中球・単球)が含まれます。結合組織の最も重要な働きは体のすべての組織・器官を保護・支持・結合することです。
結合組織に豊富な血管・神経・リンパ管以外、痛覚・触覚・温度感覚を受容する自由神経終末も広く分布しています。結合組織にある線維芽細胞は豊富な粗面小胞体と発達したゴルジ装置をもち、結合組織線維や基質の産生、創傷の修復・治癒に重要な役割を果たします。多数の水解小体や食小体を持つ食細胞(マクロファージ)は退化・変性した細胞、体内に入った異物などを処理します。ヘパリン・ヒスタミン・セロトニンなどの生物学的活性物質がたくさん入る顆粒を大量に持つ肥満細胞は炎症反応やアレルギー反応に重要な役目を果たしている。粗面小胞体がよく発達し、大量の免疫グロブリン(抗体)を産生する形質細胞は体液性免疫になくてはなりません。血管から結合組織に遊出するリンパ球・好中球・好酸球・単球などの白血球は自然免疫・獲得免疫の要職を務め、体を病原性微生物・ガンなどから守っています。
人間の皮膚は表皮と真皮からなっています。表皮の下にある真皮は主として膠原線維・弾性線維でできています。真皮の下は皮下組織で、疎線維性結合組織からなります。皮下組織は真皮を奥にある筋の筋膜や骨の骨膜に結合させる作用がありますので、皮膚から筋・骨までみな線維性結合組織により連結されています。人間の手足を触ると筋肉の塊を触れます。その塊はいくつかの筋からなった筋群で、裸露の状態ではなく密性結合組織、つまり膠原線維と弾性線維からなった筋膜にしっかり包まれています。人間に様々な形の筋があり、すべての筋は線維性結合組織からなった筋上膜で包まれています。筋上膜から結合組織は更に筋の内部に伸ばして多くの筋線維束(筋束)を作り、筋束を包む結合組織を筋周膜と言います。筋上膜と筋周膜は膠原線維と弾性線維からなります。筋束では個々の筋線維(筋細胞)はまた微量の結合組織で包まれ、筋線維を包む結合組織は筋内膜です。
筋は骨格筋、平滑筋、心筋に分かれます。骨格筋は骨を動かす筋なので骨にくっついていますが、直接骨につく筋もありますが、ほとんどの筋は腱を介して骨に終止します。腱も筋のように疎性線維性結合組織でできる腱上膜で包まれ、腱上膜から腱の内部に入り腱周膜となり、腱束を作ります。骨に付着する腱線維は貫通線維となって骨質に進入します。そしてどの骨の表面も線維性結合組織からなる骨膜に覆われています。骨膜は強靭な膠原線維で、外層の密線維性結合組織と内層の疎線維性結合組織の二層構造を持ちます。つまり、筋・腱・骨はみな結合組織に包まれ、結合組織のなかに埋まっています。
前述の通り、主要経絡は全部で十四本があり、前正中線にある任脈と後正中線にある督脈を除いて、残る十二本は手と足を通ります。手と足にはそれぞれ六本があり、手には肺経、大腸経、心経、小腸経、心包経、三焦経、足には胃経、脾経、膀胱経、腎経、胆経、肝経があり、「三焦」以外に、全部聞き慣れている内臓の名前で、それぞれの臓腑に属しその臓腑の経絡となります。臓腑といっても経絡のツボは始まりから終点まですべて体表面にあります。
ツボは「分肉の間」(肉と肉を分ける間)にあります。ほとんどのツボの取り方は「どこかの凹んでいるところ」と定められています。一本の経絡は数十個のツボが存在します。二つのツボをつなぐ線を辿って触ってみると、ほとんど筋肉と筋肉の間の溝にあたります。その「溝」の構成は前述の通り、筋を覆っている膠原線維と弾性線維からなる結合組織です。
そのために近年、「経絡の本質と物質構造は全身に分布されている線維性結合組織である」という仮説が唱えられています。
中国の国家高度科学技術発展企画の研究項目と国家自然科学基金研究項目の一つとして、中国広州にある南方医科大学人体解剖学教室を始め、首都医科大学、華中医科大学と中国科学院は、西洋医学に使われている最先端の研究技術を利用して、経絡の本質と物質構成について研究していました。コンピュータ断層撮影(CT)、核磁気共鳴画像装置(MRI)などを使って経絡の流れを探った結果、ツボのある場所はほとんど結合組織の多い所で、筋膜を始めとする結合組織から構築された全身に分布さするネットワークは経絡の物質基盤となり、経絡の本質は線維性結合組織だと。
一方、中国深圳大学医学院基礎医学科が他の医科大学基礎学科や臨床学科との共同研究でも、経絡本質の「線維性結合組織学説」を提起しました。具体的な研究方法は、一人の36歳の健康男性の志願者を研究対象にし、臨床検査でよく使われている核磁気共鳴(MRI)画像診断技術を利用して、彼の前腕筋膜の3次元立体再構築画像(3D reconstruction)を作りました。出来上がった前腕筋膜の線維性結合組織の断続的な線は手を通る六本の経絡の走行と非常に似ている上、適切な角度で3次元の立体画像を2次元の平面画像に変換してできた筋膜組織の線を異なる色につながってみると、見事に教科書に載っていた経絡の流れと重なっています。
結合組織は経絡として鍼灸刺激を受ければ、様々な生理反射と生理活性を引き起こし、血液・リンパ液の流れを良くしたり、免疫力を向上させ、組織の再生と修復を促進したりするなど、多種多様な治療効果をもたらします。