どうして鍼灸は効くの(18)?
シリーズ前回のブログでは、目には見えなく、最先端の検査機器でも映らない「ツボ」のところに、目に見える何が集まっているのかについてお話しましたが、今回のブログではツボの生理特性を見ます。
3、ツボにはどんな生理特性があるか
(1)低電気抵抗
ヒトの皮膚に弱い電流を流すと電気抵抗が起きますが、皮膚のどこでも同じような電気抵抗があるわけではありません。すなわち皮膚の導電性は場所によって異なります。1950年に医学博士の中谷義雄氏は「皮膚の導電性と自律神経と経穴(ツボ)の相関」を発表し、「良導点」と「良導絡」理論を確立しました。現在に至っても各国で認められ、鍼灸臨床で採用されています。21Vの弱い直流を皮膚に流せば、電気の流れやすい点が現れてきます。この点を中谷氏は「良導点」と名付けました。そして、電圧を12Vに落して同じように皮膚の導電性を観察すると、「良導点」の数はだいぶ減ったが、明らかに導電性の高い点は依然残こります。特に内臓の異常があるとき、12Vで見られた良導点は更に鮮明になります。中谷氏はそれを「反応良導点」と呼んでいました。
興味深いところはこの良導点、特に反応良導点は鍼灸治療に使うツボの位置とほぼ一致しています。言い換えれば、ツボは電気抵抗が弱く、導電性が高いという生理特性を持っています。電流が流れやすければ、良導点と良導点をつなぐと「良導絡」になります。すなわち、ツボとツボをつなぐ「経絡」は良導絡に該当します。これはまた面白い「点」と「線」との特殊関係を表します。
中国でも日本で発見された良導点を立証するためのテストを行いました。1700人の皮膚から690以上の良導点を見つけ、その分布はほとんど経穴の位置と合致しています。ウサギの「内関」穴の皮膚電気抵抗を測定してみると、有意に非ツボ域より低いです。それに温度・湿度の変化、皮膚損傷の有無によっても電気抵抗は変化します。また、女性の「三陰交」穴の電気抵抗は排卵、妊娠・出産などの女性ホルモンの変化により左右されているとわかりました。
ツボの良導点理論は、ツボを刺激して起こす「ひびき」(得気)を、経絡を通って病所(病んでいる個所)までに伝わる、という中医学基礎理論の一つの裏づけとなりました。
(2)高電位
生命活動は生体細胞内外の物質移動により維持されています。その物質(Na、K、Caイオンなど)移動の際に生物電気が発生します。1955年、旧ソ連の学者Цодщибоякий氏は人体の皮膚表面に電位の高い点がたくさんあり、それは内臓の生理活動との関係を指摘しました。またこの電位の高い点を「皮膚活動点」と名づけました。その後、「皮膚活動点」は経穴とほぼ一致しているが判明しました。ほかにDumitrescu氏はツボの電位は非ツボ域の皮膚電位より2〜6mV高いと指摘しました。中国中医研究院の研究結果は、70%のツボは高い電位を示しています。Wheeler氏は羊を対象に測定した結果、羊にも左右対称的な電位の高い点があり、違う日に測っても同様な結果がでました。同氏がそれに基ついて羊の経穴図を作ったそうです。
このように、ツボは高い電位、または低い電気抵抗を持ちます。この特色はツボが刺激を受けやすく、その刺激を遠くまで伝えることができる決め手となったのではないでしょうか。
(3)高温度
1970年、フランスのJ.Borsarello氏は初めて赤外線熱画像装置で人体の経穴位置を撮影しました。その後、日本の芹沢勝助氏と西条一止氏は数十名の健康男子の胸腹部を撮影し、ツボの温度は周囲より0.5〜1.0℃が高いとわかりました。この高温点、つまりツボは季節の変化と関係なく、常に高い温度を示しています。また、ツボの熱に対する伝導性はほかの部位よりも優れています。中国でも同じような研究をしましたが、人体には高温点以外に、低温点も存在しているを発見しました。このような高温点と低温点の一部はツボの位置と一致していますが、低温点はどんな意義を持っているのかはまだはっきりとわかっていません。
(4)微量発光性
微量発光測定装置を使い、144人を対象に139のツボと278の非ツボ部位を1万回以上測定した結果、ツボの発光強度は明らかに非ツボ部位より高くなります。また、経絡の要穴*4は一般のツボより強く発光しています。そして、同じ要穴の間も発光強度は違います。ほかに、上肢の経穴は下肢の経穴より発光強度が強く、左右の同名経穴の発光強度はほぼ同じです。このようなツボの微量発光特性は、これからのツボ研究に役立つことが期待されます。
(5)高濃度のカルシウムイオン(Ca²⁺)
人体には約100兆個の細胞があります。細胞と外界を区切る役割をするのは細胞膜で、脂質、タンパク質と糖質からなっています。細胞膜の生理機能は様々ですが、最も重要なのは細胞膜内外の物質輸送と情報の伝達です。細胞膜に物質を特異的に通過させる種々の小孔(チャンネル)が存在し、Ca²⁺チャンネルもその一つです。Ca²⁺は主に細胞外に存在しますが、種々な指令を受けて細胞外のCa²⁺が細胞内へ流れ込むことにより、神経伝達物質の放出や筋肉の収縮、代謝調節に当たるシグナルの受容と情報の伝達、ホルモン作用の調節、血液凝固反応の介助などに第二メッセンジャーとして働いています。最近、ツボ周辺のCa²⁺濃度ははるかに高く、鍼灸でツボを刺激するとCa²⁺の濃度が更に上昇するという研究報告がありました。この発見で、なぜツボに適切な刺激を与えれば生体に様々な生理活性が起こり、且つ生理機能が調節できるのかという謎解きができるようになりました。
*4 要穴:経穴の中で特に重要な臨床作用をもつツボを要穴といいます。要穴には、五要穴(原・郄・絡・募・兪穴)、五兪穴・五行穴(井・榮・兪・経・合穴)、四総穴、八会穴、下合穴、八脈交会穴などがあります。要穴は五要穴と五兪穴・五行穴を指しています。
久々にこんなお見事な菖蒲を見ました。
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