どうして鍼灸は効くの(10)?→現実と夢の境目には「医の原点」があります。-その3
こんにちは。渋谷区幡ヶ谷の胡鍼灸治療院です。
2018年2月20日のブログには、鍼灸の「寧心安神」作用、ストレス抑制作用について、副交感神経の賦活、及びストレスホルモンであるコルチゾールの過度分泌の抑制、そして3月11日のブログには、心房性ナトリウム利用ペプチド(ANP)の分泌促進効果を検討しました。今回は神経伝達物質の一つであるセロトニンと鍼灸治療との関係についてお話したいと思います。
幸せホルモンであるセロトニンは血液、腸、脳に存在しています。特に脳幹の神経から分泌されるセロトニンは脳の広範囲に放出され、心が落ち着くようになり、不安や憂鬱な気分が緩和され、自律神経のバランスを調節します。例えば、うつ病の治療薬で、セロトニンだけに絞って増加させるものもあります。また、以前のブログ(2017年2月14日「どうして鍼灸は効くの(6)?→鍼鎮痛⑥:下行性痛覚抑制系」)で触れたように、セロトニン作動性経路が存在し、鍼灸治療でこの経路を賦活し、脳で痛みを感じさせなくします。このように、セロトニンは痛みの緩和効果もあると考えられます。
体内のセロトニン分泌量を適切に保つことが心の健康、前向きで生き生きとした日常生活の実現には大切です。
鍼灸治療の「寧心安神」作用は、脳におけるセロトニンの分泌量を増加させるという効果にも一因があります。例えば、中国・広州中医薬大学で行われたうつ病モデルラットの実験を見てみましょう。まず実験ラットに対して、3週間刺激や断食・断水のストレスを加えうつ病態を作ります。次に続けて3週間の鍼治療を行ってから、中脳の視床下部と終脳の側頭葉深部にある海馬を取り出し、セロトニン(その他、ドーパミンとノルアドレナリンも)の量を測定しました。その結果、セロトニンの分泌量は鍼治療により大幅に増加したことがわかりました(視床下部におけるデータ→うつ病態のラット:1.40±0.44μg/g。鍼治療後のラット:2.04±0.45μg/g。ちなみに、健常ラット:2.54±0.52μg/g)。
また、別の臨床試験で、更年期女性のうつ症状に対して6週間鍼灸治療を行ってから。血中セロトニン量(実際に測定したのはセロトニンの代謝産物)を測定したら、ほぼ健常者と同量まで増加した結果が得られました。ちなみに、抗うつ薬を服用したグループよりも数値が高いことがわかりました。