どうして鍼灸は効くの(9)?→現実と夢の境目には「医の原点」があります。-その2
こんにちは。渋谷区幡ヶ谷の胡鍼灸治療院です。
このシリーズでは、西洋(現代)医学の基礎理論と用語をベースに、どうして鍼灸には多彩な治療効果があるのかを説明し、皆様と一緒に考えていきたいと思います。
2018年2月20日のブログには、鍼灸の「寧心安神」作用、ストレス抑制作用について、副交感神経の賦活、及びストレスホルモンであるコルチゾールの過度分泌の抑制、という2つの側面から考えてみましたが、今回は心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の分泌促進効果をお話したいと思います。
ANPは高血圧、心不全、腎不全、肺がん、浮腫性疾患の治療に使われますが、実はANPと不安障害との関連性も認められます。例えば、パニック障害患者さんの血中ANP濃度が正常より低いことがわかっています。鍼灸治療が不安を和らげる作用はこの血中ANP濃度を引き上げることにあるのではないかと仮説を立てられます。また、脳の視床下部-下垂体-副腎系(HPA系)を抑制し、不安にかかわるホルモン(CRH)の分泌抑制にも関わっているのではないでしょうか。これに関連する研究はまだ少なく、これからの研究結果に期待したいと思います。
ANPは主に心臓の心房から分泌されるホルモンです。33年前日本の学者により初めてその存在が確認されました。血液を全身に送り出すための心臓がまさかホルモンを分泌するなんて、大きな発見でした。その後、ANPは心臓にあるだけでなく、神経系の中枢である脳にも分布し、特に視床下部に多く存在することがわかりました。
ANPは他のホルモンと同様に血流に乗り、標的器官に作用します。よく知られているのは、末梢血管拡張作用と利尿作用ですので、心不全、高血圧などの治療薬に応用されています。
近年、ANPと不安障害との関連性もわかりつつあります。不安障害はパニック障害、全般性不安障害、社会不安障害、心的外傷後ストレス障害などが含まれ、あらゆる年齢層の発病が見られ、併発率も高いです。一部の臨床試験でわかったのは、患者さんの血中ANP濃度は正常より低いことです。不安障害の鍼灸治療でよく採るツボは「神門」、「内関」です(この2つのツボはそれぞれ「心経」と「心房経」に属しています)が、治療後のANP血中濃度が有意に上がりました(動物実験)。
不安障害には、上記の末梢血中ANP濃度が関与しているのみならず、中枢である脳の視床下部-下垂体-副腎系(HPA系)も直接関与しています。人体にストレスがかかると、視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンが(CRH)が分泌され、CRHは下垂体経由で副腎皮質に作用し、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を促します。これは前回のブログ(2018.2.20付け)で言及したように、鍼灸治療により、コルチゾールの分泌を抑制できることから、CRHの過剰分泌抑制が鍼灸がストレスに効く大本の原因ではないかと想定できます。
ANPはホルモンである以上、その受容体であるNPRAの活性化も、ANPがストレスや不安に効くために必要です。鍼灸とNPRA活性化との関連性に関しても明らかになっていく日はそう遠くないと信じたいものです。
治療院の窓から見る夕方の空はいつも好きです。