鍼談灸話(7):喘息の鍼灸治療が新薬の開発に貢献
こんにちは。渋谷区幡ヶ谷の胡鍼灸治療院です。
一昨日2018.2.7付けの「Science」誌の姉妹誌「Science Translational Medicine」の表紙を飾ったのは、喘息治療の画期的な新薬の可能性を示唆した中医学研究者たち(上海中医薬大学、上海市鍼灸経絡研究所、中国科学院上海薬物研究所)の論文でした。現在の喘息患者の半数以上は既存薬を服用しても、病状をうまくコントロールできていないため、新薬の開発が急務になったことがそもそもの背景にあります。新薬につながる新しい物質の発見のきっかけとなったのは、従来より喘息治療に対する鍼灸の著効を裏付けるための研究でした。
毎日の臨床においては、呼吸器系のアレルギー疾患(代表的ものは気管支喘息や花粉症などがあります)に対する鍼灸の著しい治療効果を再確認できる場となっております。ひどい喘息持ちの患者さんがあっさりと再発もなく完治したり、或いは毎日のβ2刺激薬や吸入ステロイド薬の量と間隔を減らしたりするのを見て、私も嬉しく思っております。花粉症に関しても同様な効果があると確認できております。
この「Transgelin-2 as a therapeutic target for asthmatic pulmonary resistance」(和訳:喘息における気道抵抗に対してTransgelin-2を治療標的とする」)を題目とする論文は喘息治療の新薬開発の話を展開しておりますが、喘息の鍼灸治療時に活性化されるTransgelin-2(トランスゲリン2、以下TG2と略します)からヒントを得たようです。
人体に刺鍼することは、百種類以上の生化学反応を起こせることがわかっております。喘息患者の「大椎」、「風門」、「肺兪」などの治療穴(治療に使う主なツボ)に刺鍼することで、喘息の発症および症状の緩和に重要なたんぱく質の一種Metallothionein-2(メタロチオネイン-2、以下MT-2と略します)が増えることを確認しました。次に、気道平滑筋細胞上にあるMT-2の受容体であるTG2も活性化され、MT-2とTG2の結合が促進されたことも続けて発見されました。MT-2とTG2結合の促進こそが、鍼灸治療が気管を広げ、喘息の症状を予防・緩和できるのです。
研究チームは6,000種の化合物からTSG12というTG2アゴニスト(作動薬)を選び、刺鍼する時に得られる気管支を広げる作用と類似した効果を確認したようです。
どうして鍼灸が効くのか?研究者たちの熱き追究はやがて新薬につなげる可能性をもたらしました。
ネット上では、以下のURLで英文を見ることができます。
http://stm.sciencemag.org/content/10/427/eaam8604