どうして鍼灸は効くの(8)?→現実と夢の境目には「医の原点」があります。ーその1
こんにちは。渋谷区幡ヶ谷の胡鍼灸治療院です。
かつて患者さんがおっしゃった言葉がとても好きです:「ここで鍼してもらったら、毎回気分がとてもよくなり、私の場合は熟睡できないが、むしろ、完全に眠りに落ちるのではなく、現実と夢の境目に浸っているのは一番心地よい」。
なるほど、確かに私自身もこの言葉を理解できる体験をしています。それは、時折健康増進や小さなトラブルを解消するために、自分に自分で鍼をするときです。自分に鍼をする時は残念ながら手足の前面にあるツボなど、手の届く狭い範囲にしかできませんが、刺鍼して15ほど経つ頃、不思議に一種の快感、心地よさ、穏やかさ、幸福感、、、なんと表現できたらよいのでしょうか、患者さんのおっしゃる「現実と夢の境目に浸る心地よさ」に似たようなものを感じるようになります。もちろん、置鍼(刺鍼したまましばらく待つこと)後、自分で抜鍼しなければなりませんので、そのまま寝てしまうことはありませんが。
しかし、うちの患者さんは本当によく治療中に寝ます。気持ちがよくて治療の序盤から熟睡モードに入る方もかなりいらっしゃいます。また、全ての治療が終わった後に、「気持ちよかった」とおっしゃいます。
なぜそうなるでしょうか。鍼灸の作用機序にはそうさせるような何かがあるのではないでしょうか。
まずよく知られているのは、鍼灸による自律神経、特に副交感神経に対する強力な賦活作用です。鍼灸の特徴の一つに、遠隔治療があります。これは西洋医学において「体性-自律反射」(「体性-内臓反射」)として説明されます。つまり、一定の体表を刺激すると、その興奮は脊髄の同じ高さの神経支配を受けている内臓に反射作用として影響を及ぼす。特に、脳幹を反射中枢とする上脊髄反射は副交感神経を賦活させることで知られております。ご存知の通り、自律神経は交感神経と副交感神経に分かれ、交感神経は緊張、興奮、激しい運動の時に興奮し、逆に副交換神経はリラックスの時に主に働く神経です。
日本の西條一止博士らの実験では、ラットの手の合谷にそれぞれ鍼とお灸を施術したところ、交感神経が抑制され、副交感神経が亢進した結論に至りました。
もう一つ、ストレスと「血中コルチゾール」の関係から考えます。コルチゾールは副腎皮質から分泌される副腎皮質ホルモンの一つで、糖質、たんぱく質、脂質の代謝に関わる重要なホルモンです。過剰なストレスでも分泌が増えます。これはストレスに対抗するための身体の自己防衛で、コルチゾールは強い抗炎症作用があり、また血圧と血糖値を上げる作用があるため、ストレスによる身体へのダメージを軽減しようとします。しかし、コルチゾール高値が続くと、免疫が下がったり、脳の海馬を萎縮させ、記憶力が下がったり、生殖細胞の異常をもたらし不妊になったりします。
コルチゾールのレベルは朝空腹時の採血である程度わかります。長期間或いは急な強いストレスにさらされている人の血中コルチゾールの値は高くなります。しかし、ある実験では、鍼灸治療を行った後の血中コルチゾールの値が有意的に下がったことがわかりました。つまり、鍼灸治療はストレス緩和に有効です。
医の原点は癒しです。今日は、副交感神経賦活、ストレス緩和と鍼灸との関係について見てきましたが、次回は別の角度から引き続き、癒しと鍼灸との関係を検討できたらと思います。
先日患者さんが持ってきてくれた胡蝶蘭です。これは元々数年前に治療院から患者さんに差し上げた「おすそ分け」ですが、治療院に置くより、患者さんのお宅の生存環境が全然に蘭に良いということで、差し上げましたが、見事に毎年花を咲かせています!本当にどうもありがとうございます!!!