鍼談灸話(2):老化を引起す慢性炎症に対する鍼灸治療①—炎症性サイトカイン
こんにちは。渋谷区幡ヶ谷の胡鍼灸治療院です。
人間の最大寿命は120歳だと言われております。それぞれの寿命に向かい、みな老化から逃れることはできませんが、老化のスピードは個人によって大きく異なり、健康寿命を左右します。また、老化と病気の関係を見ると、高血圧、認知症、糖尿病、がん、心筋梗塞、脳卒中、肺疾患などの病気は老化現象の一種だという見方ができますし、これらの病気にかかると、更に老化を加速してしまうのは間違いありません。
老化は生物の宿命ですが、その原因は一体なんでしょうか。老化につながる様々な因子の中で、特に重要なのは全身に広がる「慢性炎症」というキーワードです。慢性炎症は、私たちの体にある自己成分が炎症発生のきっかけとなりおこる自然炎症が慢性的に、広範囲に広がるものです。一方、急性炎症は外部から進入してくる細菌やウィルスなどの病原体が引起すものです。
最新の調査では、慢性炎症度の高い人は寿命が短く、逆に慢性炎症度の低い人は寿命が長い傾向にあり、しかもこの傾向は調査したあらゆる年齢層、全ての人に当てはまります。
では、老化と鍼灸とはどういった関係があるのでしょうか。鍼灸は古代より、そして現代医学が発達してきた今なお、健康寿命を伸ばし、病気の予防に大きく貢献していることは周知の通りです。先人たちが鍼灸の臨床効果の理論根拠を研究してきた中で、鍼灸による強い消炎作用があることを発見しました。この消炎作用があるからこそ、鍼灸治療が老化現象を緩和し、健康寿命を伸ばせるのです。
人体の老化に関するテーマは大きすぎて、未解明な部分がまだ医学の各分野においてむしろ多いため、ここでの説明はほんの一かじりでしかないとわかっていながらも、鍼灸の大いなる可能性に思いを馳せながら、書かせてください。
鍼灸が慢性炎症を抑える仕組みには:
①炎症性サイトカインを抑制し、抗炎症性サイトカインを活性化できる。
②炎症性物質や老廃物をすばやく回収するための微小循環を活性化できる。
③慢性炎症を取り除く免疫応答機能を回復&強化できる。
④自律神経のバランスを取り戻し、抗炎症作用を強められる。
などの点が挙げられるのではないかと考えております。
今日はここにある①のサイトカインについて、お話したいと思います。
私たちの体にある免疫細胞は体の外部から進入してきた細菌やウィルスなどの病原体を識別し退治してくれることがもはや常識になっております。一方では、病原体と関係せず、私たちの体の自己成分にも反応し、炎症状態を作り出してしまうことが近年わかってきました。この自己成分のことを「内在性リガンド」と言います。また、この炎症のことを「自然炎症」と言います。慢性炎症の背景にはこの自然炎症の慢性化、広範囲化が重要な役割を演じています。しかも、ここでもう一つの衝撃が待ち構えております。それは、内在性リガンドに反応し、慢性炎症を引起す細胞は免疫細胞だけではなく、ほぼ全身の細胞が含まれております。このことから慢性炎症が全身性の炎症性疾患、例えば、2型糖尿病、血管の動脈硬化、痛風などの原因にもなりうることを強く示唆しております。
では、どうして慢性炎症が起こるのか。それは細胞老化や大量の細胞死によって損傷を受けた組織を修復するためではないか。例えば良くない生活習慣によって長期間ストレスを受け続けた細胞が老化し、大量に死んだ場合に、炎症性サイトカインという一種のたんぱく質が放出されます。
○炎症性サイトカインの代表例にはIL-1β、TNF-α、IL-6、IL-8、IFN-γがあります。
○炎症を抑制する作用のある抗炎症性サイトカインにはIL-10、TGF-βがあります。
炎症性サイトカインは名前の通り、炎症を起こし、組織を修復するための専門細胞を呼び寄せて、最終的には損傷した組織を再建します。しかし、炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインのバランスが崩れたりすると、炎症の発生ばかりが行き過ぎて結果的に損傷組織で慢性的な炎症が繰り返されるようになるのではないか。
鍼灸はまさにこの崩れた炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインのバランスを取り戻し、過度に起こる炎症を抑えることができるのです。臨床実験の結果を例に挙げますと、難病で慢性炎症性疾患である潰瘍性大腸炎と慢性関節リウマチの患者さんに鍼灸治療を施した後に、IL-1β、IL-6、TNF-αの発現と炎症が抑制されたことが明らかになっております。これら自己免疫性疾患の発生機序は自然炎症とは混同してはなりませんが、大元の発生原理は同じです。つまり、いずれも炎症性サイトカインの誤作動か行き過ぎによる炎症なのです。この考え方は、適切な鍼灸治療が老化現象および老化に伴う糖尿病、認知症などの生活習慣病に対する治療&予防効果がある裏付けるになります。
冒頭でお話したように、この分野ではまだわかっていない内容が多く、病気の予防と健康長寿が医療分野の最重要課題となった今、これからも多くの理論研究と臨床試験の発表を心待ちにしております。
今週の待合室のお花です。クリスマスバージョンでフレームをつけてみました^-^。