どうして鍼灸は効くの(71)?
今日は肩関節の痛みを見ていきます。
四、肩関節の病気
肩関節は全身関節の中で可動域の最も広い、左右前後、自由自在に動かせる関節です。そのためにこの関節の構造は複雑で、関与する骨・筋・靭帯などが多く、日常生活でよく使われるので、損傷も起きやすいです。最もよく見られる肩関節の病気には、①いわゆる「四十肩」、「五十肩」(肩関節周囲炎)、②石灰沈着性肩関節周囲炎、③肩腱板断裂などがあります。まず肩周辺が痛い、痛みのため腕を動かせないなどの共通症状が現れてきます。
1、五十肩(四十肩)
同じ動作を繰り返すことによる腕、肩の使いすぎ、重いものを長時間で持ち、常に同じ肩にバッグをかけ、長時間横向きで寝て肩を圧迫するなど、何らかの原因で関節包や関節包と交通している滑液包を傷めて炎症を起こす病気です。
激しい痛みが出る前、なんとなく肩の違和感や軽い鈍痛を感じるとき、つまり本格的な五十肩になる前にすぐ鍼灸治療を受けると、経験上ほぼ1、2回で症状はなくなります。夜間になって眠れないほどの強い痛みがあり、腕が痛みでほとんど動けない状態になったら、鍼灸治療の効果が弱くなってしまいます。なぜなら、五十肩はほかの関節疾患と違って自然な流れを持っています。
○急性期:肩関節の痛みが発生して2~3ヶ月のあいだです。強い痛みで眠れない、寝返りをうてない、腕を少し動かしても激しい痛みが走ります。
○拘縮期:どの炎症も急性期が過ぎたら、治癒の一環として周りの組織に癒着が起きます。肩関節も同じように、関節包や滑液包に癒着が生じて、関節が縮まって硬くなります(拘縮)。急性期のような強い痛みがなくなりますが、肩はまだ自由に動けません。
○回復期:発症してから平均2年くらい経ったら回復期に入ります。痛みは自然になくなりますし、肩の動きも徐々に普通に戻ります。
五十肩は肩関節周囲炎というのは、関節の周りに炎症が起きるということです。どの炎症も急性期を過ぎると、破壊した組織を修復するために、細胞の再生と線維組織の増殖(線維化)が亢進します。皮膚の場合は傷の痕(瘢痕)、肩関節の場合は関節の拘縮が起こります。しかし、時間が経つと、皮膚の瘢痕がだんだん薄く平らに、肩の場合は余分な線維組織が処分・吸収され、癒着が解消されると、肩の動きは自然によくなります。そのため、五十肩の急性期 → 拘縮期 → 回復期は自然な治癒過程で、本来自分の持っている治癒力で自然に治ります。
先ほど、一旦急性期に突入すると、鍼灸治療の効果は弱まると書きましたが、役に立たないというわけではありません。鍼灸治療はこの自然な治癒過程を短縮させることができます。
急性期には、鍼の鎮痛作用を利用して痛みを和らげます。拘縮期と回復期には、鍼と同時にお灸を併用すれば、血流はよくなり、癒着部分の組織の吸収・修復が促進され、この二期をかなり(例えば半分以下に)短縮できます。
2、石灰沈着性肩関節周囲炎
石灰(カルシウム)がからだの至るところに沈着することがあり、臨床でよく見られるのは血管壁、肺臓、腎臓、胃粘膜の間質組織、筋肉、関節腔などです。関節、筋以外のところに沈着してもほとんど自覚症状はありませんが、関節・筋に沈着すると突然激しい痛みが生じることがあります。カルシウムが肩関節周辺のさまざまなところに沈着することがありますが、最も多いのは関節の上部にある腱板(棘上筋の腱)です。元々何もないところに突然石灰という異物があると、免疫系が一生懸命に排除しようとすると急性炎症反応が起こり、強い痛みが生じます。免疫系は時々好意で起こした免疫反応がからだにとって不都合な結果をもたらすことになります。
急性炎症性反応が起きたとき、炎症性サイトカインや免疫細胞が局所に集中しないように、まず痛む局部を氷や保冷剤などで冷やしたほうがいいです。冷やすだけで炎症性反応を弱め、痛みは緩和します。
鍼灸治療には鎮痛や炎症性反応の抑制効果を期待できます。北京中医薬大学鍼灸推拿学院は実験用ウサギを使い、肩関節周囲炎モデルウサギを作成し、モデル組と治療組に分け、治療組に1日1回、21回の鍼治療をしました。モデル組の関節包内側の滑膜層や周りの組織には充血・水腫・癒着などの炎症性反応がみられ、関節腔内に大量の浸出液がたまることが確認できます。治療組はモデル組より炎症性反応が軽くなり、溜まった関節液の量も少なく、また、治療前後に血中及び組織中のインターロイキン-1β(IL-1β)、セロトニン(5-HT)、DNAの発現レベルを比べたところ、鍼治療の前に、3つのデータは両組とも上昇しましたが、鍼治療後に治療組はモデル組より有意義に下がりました。
IL-1にはαとβの2種類があります。両方とも炎症性サイトカインであり、働きには大きな違いはありません。関節炎症の場合は特にIL-1βの発現が多いと言われます。IL-1βはリンパ球、単球、顆粒球などの免疫細胞が増殖し、発熱や痛みをもたらし、破骨細胞を活性化させる機能があります。5-HTは神経伝達物質で、精神安定作用などの重要な働きがありますが、関節に炎症が生じると放出され、血管を拡張して炎症性浸出液の生成を促進し痛みを増す作用があると考えられます。DNAは細胞再生に不可欠ですが、炎症性反応のときには線維芽細胞の増殖・組織の癒着など、望ましくない働きをします。
鍼治療は関節におけるIL-1β、5-HT、DNAの過剰な表出を抑える効果があり、関節の炎症性反応が軽減されます。北京中医薬大学鍼灸推拿学院の作ったウサギモデルは「五十肩」で、石灰沈着性肩関節周囲炎ではありませんが、炎症性反応はほぼ同じですので、同様に理解してもいいと思います。
3、肩腱板断裂
ケガ以外に、50代、60代から発症しやすくなり、長年肩の使いすぎによって腱板が傷ついて擦り減り、薄くなったり、孔が開いてしまうようになります。加齢と共に発症頻度が高くなりますが、無症状の方も半数を超えます。
痛みで日常生活に支障がある場合、リハビリなどの運動療法(や手術)と共に鍼灸治療を受けると、回復は速くなります。
秋雲です。
夕日もきれいです。
街中の夕日。
治療院から見た夕日。
色はどんどん変わっていきます。
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