どうして鍼灸は効くの(58)?
今回はIL-2-IFN-NKC免疫調節システムと鍼灸治療との関係をみます。
4、IL-2-IFN-NKC免疫調節システム
IL-2(インターロイキン-2)は活性化されたT細胞(特にTh1細胞)から産生されるサイトカインの一つで、主な働きは、
①T細胞を増殖・活性化させる
②B細胞を増殖し抗体の産生を亢進させる
③マクロファージなどの単球を活性化させる
④ナチュラルキラー細胞(NK細胞)を増殖・活性化させる
⑤リンホカイン活性化キラーT細胞(LAK細胞)*28の生成を誘導する
⑥IFN-γ産生を誘導する
などです。
IFN(インターフェロン)は免疫調節因子として機能しています。人の体では大きく分けて3つのタイプがあります。Ⅰ型にはIFN-α、IFN-βなど数種類があり、IFN-αとβはリンパ球、マクロファージ、線維芽細胞、骨芽細胞、血管内皮細胞などから分泌され、ウィルスなどの病原体侵入に反応しウィルスの増殖を阻止する働きがあります。またマクロファージとNK細胞を活性化し、腫瘍細胞の増殖を直接抑制する作用もあります。Ⅱ型はIFN-γのみで、活性化されたT細胞(主にTh1細胞)から産生され、IFN-αとIFN-βの作用を増強するほか、マクロファージを活性化して貪食・殺菌作用を増強します。もう一つ注目されているのは、Th1細胞から分泌されたIFN-γはTh2の動きに反応してTh2の機能を調節する作用があり、前述のTh1/Th2のバランスを維持するには重要です。
NKC(ナチュラルキラー細胞)は強い細胞傷害性を持つリンパ球の一つで、全身をパトロールしながら、ほかの細胞からの指令を待つことなく、異常細胞を自分で見つけ次第すぐに攻撃を始め、いち早く我々の体を守ってくれる重要な自然免疫因子として働きます。殺傷する対象は腫瘍細胞やウィルス感染細胞ですので、早い段階で標的細胞を見つけ、重症化する前に腫瘍細胞やウィルス感染細胞をやっつけます。NK細胞は殺傷したい細胞のすぐ近くでパーフォリンを放出し、標的細胞膜に孔を開けて、顆粒中のグランザイム(タンパク質分解酵素)などの物質を標的細胞質内に放出し、細胞分解作用により標的細胞のアポトーシスを誘導したり(つまり腫瘍細胞の破壊)、ウイルス感染細胞内のウイルスを殺したりします。
近代社会で、強い精神的ストレス、過度な肉体疲労、慢性的な睡眠不足、また怪我、手術、内服薬の副作用などが体に強いダメージを与えたりしますので、IL-2-IFN-NKC免疫調節システムのバランスが壊され、免疫機能を低下させたりします。結果として、感染症や癌などの病気にかかりやすい状態に陥ります。
ここで余談ですが、幼児は抗体を産生する獲得免疫系は大人と比べまだ未熟で、代わりにNKCに代表される自然免疫系が中心的な免疫役割を担当しています。幼児においては、新型コロナウィルスにかかったとしても、ほとんど軽症か無症状で済みます(今後もデルタ株のような感染率の高い変異種や新種ウィルス等による子供の感染率が上がる可能性がありますが、日本では現段階において、幼児を含めた10代以下の新型コロナウィルス感染症による死亡者数はゼロです)。一つの仮定ですが、自然免疫がちゃんとしている幼児が感染しても、重症化を引き起こす一つの要因であるサイトカインストームという壮絶な状態になるこくなく、体内で戦闘開始早々、速戦速決でウィルスを消滅しているのです。これがIL-2-IFN-NKC免疫調節システムが新型コロナウィルスに対しても重要であることを示唆しております(現段階で人体の免疫システムの全貌はまだ分かっていない部分が多く、複数原因が考えられる中、どうして幼児が新型コロナウィルスに対する免疫が大人より効率よく働ているのかの最終結論はまだ出されておりません)。
この免疫調節システムに対して、鍼灸はどんな影響を与えるのかの研究報告は相次いで発表されています。その一つに、中国広州中医薬大学の研究論文があります。
中国広州中医薬大学は43匹の実験用ラットを使い、33匹のラットに8週間大運動量の強制性水泳訓練をさせ、運動性免疫抑制モデルを作り、このうち16匹のラットに2週目から毎日鍼の治療を施しました。9週目にモデル組(17匹)、治療組(16匹)、対照組(水泳訓練や鍼治療は全部やらない)(10匹)のIL-2、IFN-γ、NKCを測りました。治療組のIL-2は8.92±0.91(ng/mL)で、対照組の9.78±0.90より少し低いですが、モデル組の6.95±0.64よりかなり高い結果となりました。同様に、IFN-γは治療組が856.59±113.20(pg/mL)で、対照組の1030.94±20.87より低いですが、モデル組の611.68±33.38と比べるとかなり高く上がりました。そして、NK細胞は13.17±0.61(%)となり、モデル組の9.61±0.69よりずっと高く、対照組の10.14±0.93よりも高いという結果になりました。
鍼灸治療が副作用なく、確実に免疫力を高め・維持する臨床効果は今までのブログで十分にわかっていただけたと思いますが、以上のようなIL-2-IFN-γ-NKC免疫システムに対する調節作用についての研究報告は、その一つの重要な裏づけとなります。実際にうちの治療院でも、長年健康維持と病気予防のために定期的に通われている患者さん(この場合はもはや“患者”と呼ぶのはおかしいです、なぜなら、この方々の健康レベルは普通よりかなり高いですので)は、インフルエンザ、普通の肺炎、新型コロナウィルス性肺炎、肺結核、癌などの感染症、悪性腫瘍に新規にかかってしまう症例はありません。
*28 リンホカイン活性化キラー細胞(LAK細胞):特異的に細胞(腫瘍細胞)を殺傷するキラー細胞です。リンホカインはサイトカインの一つで、最初に抗原に刺激されたリンパ球から分泌された物質として発見された可溶性たんぱく質です。細胞性免疫の応答・調節に務めます。
柿が実り始めました。
こんな夜、秋の夜長を鳴き通す虫の声に耳を傾けるのもいいですね!早く晴れてきてほしいです。
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