“重症化しない”がキーワード ― withコロナ時代に生きる
こんにちは。渋谷区幡ヶ谷の胡鍼灸治療院です。
新型コロナウィルス(以下”COVID-19″という)の発生で今年1月23日の武漢ロックダウンから、我が日本でも三か月もしないうちに緊急事態宣言することを予想できた方はどのぐらいいたでしょうか。今は一般家庭だけでなく、患者を診療・収容する医療現場でさえ、マスク、消毒液、防護服、人口呼吸器などが不足し、医者、看護師といった有資格者も不足しております。いかにウィルスとの戦いは厳しいものか、我々ひとり一人がこれからも身をもって体験することになるでしょう。
生産活動の合理化、効率化、そして最大利潤を求め、世界中の社会活動・経済活動がグローバル化になった今、一層ウィルスとの戦いを難しいものにしてしまいました。しかし、国内回帰、多国リスク分散、鎖国の動きが加速するにせよ、グローバル化を無くすことはもはやできません。
この地球上で人類とウィルスの戦いは終息する日は来ないでしょう。もし終息があるとしたら、生き残るのは人類のほうではないと思います。ズル賢いCOVID-19のように、ウィルスは変異を繰り返し、姿を無限大に変え続けます。ワクチンと特効薬が出たら、また別のウィルスが生まれ、新たな脅威を人類にもたらすことになるでしょう。ウィルスをゼロになるまで殺すことを主体に置かず、いかにウィルスと共存しながら、我々の生産活動、日常生活を維持していくかをよく考えるのは、今回のCOVID-19がいいきっかけになったらいいと思います。人類が支払った犠牲を無駄にしてはなりません。
日本では、COVID-19感染が確認された症状のある人の約80%は軽症、残りの14%が重症、6%が重篤で人工呼吸器が必要となります(重症者の半分は治療により回復しています)。つまり、全体の20%に該当する重症者は最初の風邪症状から回復せず肺炎になり、重症者の30%はやがて重篤状態になっていきます。いかに重症化を食い止めるかは医療崩壊を防ぎ、1年にも2年にもなると言われているCOVID-19との戦いをしながら、社会活動を止めない鍵になると思っております。
なぜ重症化するのか、以下の2つが主な原因ではないでしょうか。
①炎症性サイトカインストーム、つまり免疫の暴走
本来ウィルスとだけ戦えばいいはずの免疫細胞が過剰反応を起こし、IL-1β、TNF-α、IL-6、IFN-γと言った炎症性サイトカインを大量に出してしまうせいで、肺組織だけでなく、心臓、脳、膵臓、腎臓、肝臓などといった重要臓器を自ら攻撃しはじめ、肺炎のみならず、心不全、脳梗塞などの多臓器不全を引き起こします。
②免疫の暴走を止めるTreg細胞が増えない
免疫細胞が暴走しないように、人体に元々備え付けている機能の一つがこのTreg細胞と呼ばれる免疫細胞による免疫制御機能があります。しかし、今回のCOVID-19のよる重症患者に共通して見られるのは、Treg細胞があまり増えないことです。反対に軽症で済んだ患者さんには、Treg細胞の有義な増加が見られたのです。
私は鍼灸師ですので、職業的にこういうキーワードに敏感で語らずにはいられません。4月3日のブログ「新型コロナウィルス性肺炎に対する鍼灸治療の現場」で報告させていただいたように、中国では重症患者を治療する医療現場で鍼灸師を配属する理由はここにあるのではないか。つまり、鍼灸治療は上で挙げたCOVID-19による重症化の原因にきちんと対処できる術があるからです。肺炎の傾向が診られる患者、重症化しやすい60代以上の患者に早い段階で、重症化させないための鍼灸治療を投入すべきではないかと考えております。すでに重症化してしまった患者さんに対しても生存率を上げることができるのではないか。既に重症者治療に鍼灸を導入している中国から、これから臨床データが公表されることを期待したいところです。
さて、3年前の2016年12月8日に書かせていただきましたブログ「鍼談灸話(2):老化を引起す慢性炎症に対する鍼灸治療①-炎症性サイトカイン」には、鍼灸治療がいかにして炎症性サイトカインを減らすかについて言及しております。その一部をここで再掲載します:
「鍼灸はまさにこの崩れた炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインのバランスを取り戻し、過度に起こる炎症を抑えることができるのです。臨床実験の結果を例に挙げますと、難病で慢性炎症性疾患である潰瘍性大腸炎と慢性関節リウマチの患者さんに鍼灸治療を施した後に、IL-1β、IL-6、TNF-αの発現と炎症が抑制されたことが明らかになっております。これら自己免疫性疾患の発生機序は自然炎症とは混同してはなりませんが、大元の発生原理は同じです。つまり、いずれも炎症性サイトカインの誤作動か行き過ぎによる炎症なのです。」
もう一つ別の例を挙げましょう。中国中医科学院鍼灸研究所による動物実験です。ラットを12匹ずつに、モデル組、耳珠迷走神経鍼組に分けまして、モデル組と鍼組のラットにLPSというリポ多糖を注射して敗血症や中毒性ショックを起こします。鍼組のラットに両側耳の迷走神経耳介枝が分布する外耳道と耳介部に2本の鍼を刺鍼し、鍼に持続刺激を与えます。そして、各組のラットの腹大動脈の血液を採り、TNF-α)とIL-6を測定します。また、肺組織をとり、肺組織の核内因子NF-κBp65も測定します。その結果は、TNF-α、IL-6、NF-κBp65の三項目のデータについて、モデル組はすべて著しく上昇したに対し、耳部電気鍼組は明らかに低くなりました。結論としては、鍼治療は有効的に炎症性サイトカインの放出を抑制できます。これは鍼による迷走神経の活性化によってもたらした治療効果ですが、詳細に関して、今後のブログ「どうして鍼灸は効くの?」シリーズにおいて書かせていただく予定です。
ここで強調しなければならないのは、鍼灸治療による炎症性サイトカインへの抑制は決して人体本来の免疫力を同時に下げるものではありません。あくまでも、鍼灸治療は免疫力を上げながらも、組織破壊につながる免疫の行き過ぎを抑えます。しかも、副作用はありません。つまり、ウィルスのような病原菌やがん細胞をやっつける免疫力と自己組織への攻撃やアレルギー物質への過剰反応を抑える力のバランスを正常な状態に戻すのです。ここは鍼灸治療と免疫抑制剤との違いです。このバランスを維持するには、前述のTreg細胞が関係しておりますが、鍼灸治療はTreg細胞を増やす働きがあるという研究は日本でも(特にTreg増強による不妊治療の分野において)行われてきており、また別の機会に書かせていただきます。
今日は重症化しないことの重要性を考えました。繰り返しで申し訳ございませんが、免疫力を上げて、そもそもCOVID-19にかからないのは一番の理想です。万が一かかったとしても比較的免疫力の高いほうが重症化になりにくいことがわかっております。なぜかというと、免疫力が高ければ、ウィルスとの戦いは短期間で終息でき、余分な炎症性サイトカインを出さなくても済みますし、Treg細胞を増やすバランス力も保てるからです。鍼灸の真髄は免疫力を上げて病気を予防することです。そして、いい生活習慣も免疫力を正常に保ちます:いい睡眠、栄養のある食事、適切な運動、ストレスを軽減することです。
野良猫だって、頑張っています!ごはんをもらってた給食センターが休業に入ってしまいました。
目つきは厳しいですね。
日本はまだ外出禁止になっていませんので、3密を避けて、ご近所散歩で可愛いお花たちを発見しませんか。