どうして鍼灸は効くの(39)?
前回のブログでは、鍼灸治療による内臓反射が循環系にどういった影響を及ぼすかに関して書かせていただきましたが、今回は呼吸系に対する調節作用を見ます。
(2)呼吸系に対する調節作用
呼吸器は循環器と同じように大変重要です。ほかの内臓は重度な機能障害が起きてもまだ数日間生き延びることができますが、呼吸系と循環系は5分間停止すると酸素欠乏のため死に至ります。
呼吸運動(換気運動)を起こすのは骨格筋である呼吸筋の働きです。主な吸気筋は横隔膜と外肋間筋であり、安静時の換気には横隔膜が吸気量の約75%を占めていますが、運動とか呼吸不全があるとき、横隔膜と外肋間筋の努力性の吸息が必要となり、補助筋である斜角筋と胸鎖乳突筋も収縮して吸気運動を助けます。腹式呼吸では横隔膜が働き、胸式呼吸では外肋間筋が働きます。安静時の呼気は肺の受動的な弾性収縮力により行いますが、喘息などの呼吸器疾患があるとき、呼気筋である内肋間筋や腹筋が収縮して積極的に呼気を強化するように働きます。
吸気は能動的な換気であり、脳幹にある呼吸中枢から発するインパルスは吸気筋を刺激して収縮させます。吸気筋の収縮により胸郭を拡大させ、胸腔内圧が大気圧より低くなるため、空気が気道から肺に入り、気道を介して酸素(O2)の多い大気と二酸化炭素(CO2)の比較的多い肺胞気との交換が行われます。肺胞と毛細血管との間でO2とCO2が拡散によって交換されます。O2の満ちた血液が肺静脈によって心臓に戻り、心臓のポンプ作用で全身に送り出します。全身の組織器官で毛細血管と組織細胞の間でO2とCO2の交換が行われ、CO2がHCO2の形で肺に運ばれ、CO2として呼出されます。
呼吸運動は脳幹にある延髄呼吸中枢と橋呼吸調節中枢に制御されている自律性リズム運動ですが、また視床や大脳皮質にコントロールされる随意性運動でもあります。呼吸運動の調節にはいくつかの反射が関与しています。
① 肺伸張反射と肺圧縮反射:胸郭内や気管支、細気管支の平滑筋に伸展を受容する伸展受容器があります。吸気のとき、肺容積の増加によって受容器が刺激され、迷走神経の有髄感覚神経を介して信号を延髄呼吸中枢に伝達します。この信号は吸気中枢を抑制し、吸気から呼気への切り替えを誘発します。この反射は肺の伸張反射といい、へーリング・ブロイエル反射ともいいます。また、気管支の上皮細胞の間に化学的刺激に応じるイリタント受容器があり、肺容積を縮小させるときに反射して呼気が抑制され吸気を促します。この反射を肺圧縮反射といいます。
② 脊髄反射:
○感覚受容器による脊髄反射:呼吸性運動ニューロンは脊髄前角に分布しています。各脊髄レベルで吸気筋の運動ニューロンと呼気筋の運動ニューロンの間にネットワークが形成され、それぞれの拮抗筋に抑制作用を示しています。肋間筋の伸展による感覚神経への刺激は、肋間筋および横隔膜の運動ニューロンを興奮させ、胸郭は拡大し吸気運動を促進します。反対に、吸気筋収縮による感覚神経への刺激は、横隔膜の運動ニューロンの活動を抑制して吸気を止めます。呼吸器疾患による呼吸抵抗が増大したり肺の伸びが悪かったりする時、感覚受容器がそれを感知してインパルスを脊髄前角まで伝達して、各脊髄レベルで形成されるニューロンネットワークによって、呼吸筋が総動員され呼吸抵抗に十分対抗できる筋力を発生させます。病気の時、この反射は重要な意味を持っています。
○筋紡錘と腱器官による脊髄反射:呼吸筋は骨格筋で、ほかの骨格筋と同様に固有受容器が存在します。肋間筋や横隔膜の筋線維が腱に移行するところにゴルジ腱器官があります。ゴルジ腱器官は自原性抑制反射(前出)によって呼吸筋の収縮力をモニターリングし、過度の吸気を抑制し筋に過大な負荷が加わるのを防御する働きがあります。
肋間筋や腹壁筋に筋紡錘が豊富に存在します。筋紡錘が刺激されると筋は収縮しますので、体位変換など必要に応じて呼吸筋の収縮を調整します。病的気道抵抗が増加する時にも筋力の増強、胸郭の安定に役立ちます。
鍼灸臨床では脊髄反射を利用して適切なツボを選び、激しい咳・喘息による肩、胸、背中の筋肉のコリと痛みを改善するには効果的です。
○自律神経が関与する脊髄反射:気道は鼻、咽頭、喉頭を経て気管になった後、二つ以上へ分岐を繰り返して、気管支、細気管支、終末細気管支、肺胞管、肺胞嚢と分岐して肺胞に達します。気管支の筋は平滑筋で、太い気道には輪状筋と縦走筋があり、細い気道に輪状筋だけで気道の太さを調節します。細気管支から肺胞管までは筋量が多く、強い収縮で完全に近い気道閉塞が起きてしますこともあります。
気道の平滑筋は自律神経の交感神経と副交感神経(迷走神経)に支配されます。迷走神経は平滑筋を収縮させ気管支内径を狭くしますが、逆に交感神経は平滑筋を弛緩させ気管支内径を広げます。気管支粘膜に粘液を産生する杯細胞と気管支腺があり、空気が肺胞に達する前に湿度を加えたり、空気中の異物を捕まえたりする役目を果たしています。この粘液の分泌は迷走神経により促進され、交感神経によって抑制されます。
臨床でよくみられる喘息はアレルゲン例えば、冷気、煙、運動などの刺激で、気道平滑筋が収縮し気流抵抗を増大させ、また気道の粘液分泌が増加し気道粘膜が浮腫状態になるため、呼吸困難になり、時には呼吸不全、心不全など重態に陥ることもあります。西洋医学では、交感神経を刺激し迷走神経(副交感神経)を抑制する作用がある気管支拡張薬を使って喘息を抑えます。しかし、長年喘息で苦しんでいる患者さんは少なくありません。このような頑固な喘息は実は鍼灸で全治するケースはかなり多いです。それは鍼灸特に鍼の刺激で脊髄反射を活用し、交感神経を優位にさせる結果です。専門家たちは背中に喘息に特に効果のあるツボを発見して、喘息の治療に大いに貢献してきました。胡鍼灸治療院のホームページにあるブログや症例紹介で喘息症例の一部をご覧いただけます。
さて、次回は鍼灸治療による消化系に対する調節作用を説明させていただきます。
観光地に行きたいでしょうが、今しばらくの我慢です。今はしっかりと我慢しないと、この先はもっとつらく長い我慢が強いられます。観光地に行かなくても、外出禁止令が出た諸外国と違い、日本はまだ散歩できていますので、散歩道にある野花や近隣さんが植えた可憐なお花を眺めて、新たな発見や心の慰めが得られるはずです。みんなで頑張りましょう!
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