どうして鍼灸は効くの?(102)-虚血性心疾患・脳疾患について
前回までは虚血性心疾患に対し、鍼灸治療による
①不整脈の改善作用
②心筋細胞間情報伝達機構の保護作用
③心筋細胞を壊死から守る作用
④動脈硬化性心臓病に対する予防と治療効果
を臨床試験を通してみてきました。今回は前回の続きで、急性冠状動脈症候群に対する鍼灸施術の予防作用についてみます。
③冠状動脈組織中のCD40L、MMP-9発現レベルの変化
前文にて炎症性反応は動脈粥状硬化形成の全過程において存在していると書きましたが、炎症性マーカーとしてよく使われているのはCRP、IL-6、TNF-αだと紹介しました。冠状動脈粥状性硬化による種々の病状においても、病状進行の違う段階の代謝・機能異常を反映するバイオマーカー(生化学指標)が開発され、臨床診療に応用されています。急性冠状動脈症候群(ACS:Acute Coronary Syndrome、不安定性狭心症、急性心筋梗塞と心臓性突然死という3つの重篤な疾患)の各病期進展実態・疾病予後などについての診断・予測・治療方針の確定においても、重要な参考価値があります。
○CD40L(CD40リガンド)は活性化されたヘルパーT細胞表面や血小板に発現する細胞表面分子です。受容体のCD40(B細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、血管内皮細胞に存在)と結合すると、
・B細胞を活性化し抗体産生を促進する。
・樹状細胞(抗原提示細胞)を活性化して、炎症性サイトカインを分泌する。
・サイトカインによりT細胞は活性化し、IFN-γを放出する。
・IFN-γによりマクロファージが活性化し、殺菌の目的で活性酸素を放出する。
・活性酸素の増加により酸化LDLの生成は増加する。酸化LDLの除去のためにマクロファージは泡沫細胞に変化しプラークの増大や破裂につながる。
・プラークの不安定化や血小板の活性化により血栓の形成を促進する。
ほぼ半数のACS患者さんの血中CD40L値は上昇し、高値CD40L患者は予後が不良とみられています。CD40Lは重要な生化学指標としてACSの実態を反映しています。
○MMP-9(マトリックスメタロプロテアーゼ)はMMPファミリーの一つです。MMPは線維芽細胞、マクロファージ、好中球、滑膜細胞などから産生され、細胞外マトリックス(ECM)*27を分解する働きを持ち、細胞・組織のリモデリングに重要な役割を果たしています。損傷組織の修復には成長因子や線維化促進因子などの作用で、損傷部位に細胞外マトリックスの沈着が促進され、瘢痕が形成されます。ただし、瘢痕内のECMが合成・沈着された後も、継続的に修飾または再構成が必要です。つまり、組織がもっとも理想的な形で修復されるため、瘢痕内ECMの合成と分解はバランスを取りながら行われています。ECMの分解に働くのはMMPです。
粥状硬化を起こした動脈プラーク内には巨大化した泡沫細胞からMMP-2やMMP-9を分泌しています。これらのECM分解酵素はプラーク表面に覆われている被膜を分解し、プラークを不安定化させ、ACS患者にはMMP-9が上昇し、プラーク破裂のリスクが高くなり、心臓突然死と有意の関連性があると認められています。
前回のブログで述べたグループの研究結果は、モデル組ラットのCD40LとMMP-9の発現は著しく上昇しました。鍼事前処理組、鍼治療組、薬物治療組のCD40LとMMP-9の発現はモデル組より有意に下がりました。3組の中で、鍼事前処理組の治療効果はもっともよかったという結果になりました。
冠状動脈組織中のCD40LとMMP-9の発現を減少させることができるという実験データは、鍼治療は冠状動脈粥状硬化性心臓病とその急性発作を予防・治療できることが証明されました。特に、普段からの定期的な鍼治療は最も重要だということです。
*27 細胞外マトリックス(ECM):細胞外の間質成分であり、①コラーゲン、エラスチンのような線維性タンパク質、②プロテオグリカン、ヒアルロン酸のような抱水性のゲル、③接着性糖タンパク質などから構成されています。細胞間の充填・力学的な支えの以外に、細胞の増殖・分化、再生の制御・維持作用があり、組織微小循環の確立、損傷組織の再生・修復、瘢痕の形成などに大変重要な機能を果たしています。

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