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どうして鍼灸は効くの?(98)-虚血性心疾患・脳疾患について

2026年03月01日 公開

今回からはしばらく、虚血性心・脳疾患について見ていきます。

四、虚血性心・脳疾患

粥状動脈硬化症がよく現れる場所は、心臓、脳、腎臓、下肢を灌流する動脈などです。動脈硬化が進行すると最終的に心筋梗塞、脳梗塞、大動脈瘤、腎不全、下肢の壊疽などの病態になります。中で最もリスクが高いのは心と脳の疾患です。

 

1、虚血性心疾患

心臓は一生休むことのできない内臓です。心臓が絶え間なく動けるのは酸素や栄養素が必要で、それらを供給するのは冠状動脈です。冠状動脈の粥状硬化によって心筋への血液灌流量が減り、虚血性心疾患を引き起こします。

虚血性心疾患には、病理変化や臨床症状により4つの疾患名があります:

①狭心症

②急性心筋梗塞

③慢性虚血性心疾患

④心臓性突然死

狭心症には、また安定性(労作性)狭心症と不安定性(安静性)狭心症や血管攣縮による異型狭心症という3つのタイプに分けます。不安定性狭心症、急性心筋梗塞と心臓性突然死という3つの重篤な疾患に対して急性冠状動脈症候群という概念が使われています。

いずれにしても、虚血性心疾患の基礎疾患は冠状動脈粥状硬化です。プラークによる冠状動脈内腔の狭窄、プラークの破裂による血栓形成、血栓による動脈内腔の閉塞・血流途絶・心筋壊死、そして血管内皮炎症の進展、血管の異常収縮など、各類型・各段階の虚血性心疾患になります。

 

(1)虚血・再灌流傷害

医療機器の開発や臨床治療技術の進歩で急性心筋梗塞による死亡率は大幅に下がりました。血栓溶解療法、ステント留置・冠状動脈バイパス手術などの治療法により、冠状動脈の再灌流が実現できています。ただし、再灌流がもたらす心臓に対する傷害は虚血時に生じた傷害よりも大きく、その理由はこのシリーズの基礎編にて述べましたが、もう一度まとめます。

①血液の再灌流で損傷組織への酸素供給が増加することによって、活性酸素が大量に蓄積され、心筋組織への傷害はさらに大きくなる。

②再灌流で損傷した局部組織へ白血球や炎症性サイトカインが大量に入り、炎症反応がさらに強くなり、心筋組織の損傷はいっそう悪化する。

③活性化された白血球は傷害組織や壊死組織を除去するために、種々なサイトカインの放出や食作用により、心筋組織の損傷は加速する。

④虚血によって血管傷害が起こり、再灌流するときにもろくなった血管から血が漏れて出血する。

冠状動脈の再灌流が回復した後、今度怖いのは不整脈・心外膜炎・心不全・心破裂などの合併症です。これらの危険を乗り越えられるかどうかは、病気の予後と直結しています。つまり合併症の軽減は、虚血・再灌流による傷害を最小限に抑えるポイントになります。

 

(2)鍼灸治療は再灌流傷害を軽減する機序

①鍼灸の不整脈改善作用

心筋再灌流に続発する不整脈は突然死の原因の一つです。不整脈として現れてくるのは徐脈、頻脈、心ブロック、心室性期外収縮、心室頻拍、心室細動です。これらの不整脈は心筋の虚血部分の電気易興奮性によるものと考えられ、とくに易興奮性による心室細動は心臓突然死の最も多い原因です。

心臓を支配する自律神経は交感神経と副交感神経に分けます。交感神経の節後線維からノルアドレナリン(ノルエピネフリン、NE)という神経伝達物質が放出され、心筋細胞膜にあるレセプター(β₁-AR)と結合します。NEとβ₁-ARの結合により細胞膜Ca(カルシウム)チャネルを開孔させ、Caイオンが細胞内に流入し、Ca電流が強くなり、心筋の収縮力が増強し心拍数が増えます。

急性心筋虚血の場合、交感神経系の活動が亢進し、NEが多量に血中に放出します。また副腎髄質からもアドレナリン、ノルアドレナリンの放出が増加し、β₁受容体を介して心臓に作用し心拍数を増やします。そして急性心筋虚血や再灌流の際に、細胞膜表面に存在するβ₁-ARの数が著しく増え、β₁-ARたんぱく質の発現も激しく上昇します。それにNEとβ₁受容体との親和性の亢進も加わり、心筋の自律性が増加する環境は作らます。また、ほかの要素が存在する状況下で、心室筋内で快速で且つ不規則な電気の旋回により心室細動が生じます。

中国湖北中医薬大学は急性心筋梗塞による虚血・再灌流モデル組ラット(冠状動脈左前下行枝の結紮後に再灌流を行った)を作り、実験を行いました。心筋虚血状態になったらすぐ前頭部にあるツボに10分間の電気鍼をした後に、5分間そのまま置鍼し、心筋虚血前、虚血後30分、再灌流15分時の交感神経放電状況を記録しました。またテストが終了後にすぐ心筋のβ₁-ARタンパクの発現量と血液NE値を測定した結果、虚血30分と再灌流15分のとき、鍼組はモデル組より交感神経の放電頻度が有意義に降下し、心筋β₁-ARたんぱく質の発現は鍼組がモデル組より明らかに減少し、血清NE値は鍼組がモデル組より少ないです。

結論としては、鍼治療は交感神経の興奮を抑制し、血中のアドレナリン量と心筋細胞膜の受容体たんぱく質表出を減らす効果があります。そうすると、心筋虚血・再灌流時に発生する致死的不整脈の予防は期待できるのではないでしょうか。

興味深いのは、今回の実験は手足のツボを使わず、頭にあるツボをとったことです。ツボにある皮膚感覚を支配する神経は三叉神経の第1枝(眼神経)であり、神経の一部は三叉神経脊髄核から起きます。鍼の刺激は脊髄後角に入り、同じ高さにあるニューロを介して迷走神経の孤束核に伝わり、迷走神経の運動性線維を活性化させます。そして迷走神経の交感神経に対する拮抗作用により心筋の異常な電気興奮を緩和して、不整脈を改善させることができました。

次回は再灌流障害を軽減する機序の続きを述べます。

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