どうして鍼灸は効くの?(92)-癌について
3、ガンの予防と治療に鍼灸がどんな役割があるのか
(1)免疫増強作用
この「どうして鍼灸は効くの?」シリーズはここまできて、90回目に入りました。いろんな角度から鍼灸が効く仕組みをあえて、みんなが理解しやすい西洋医学の実験手法と用語で見てきました。今までの投稿を見返っていただければ、随所鍼灸治療が正常な免疫バランスを取り戻し、免疫力を保つことを述べてきました。鍼灸は確実に免疫増強作用があります。うちの治療院に病気予防のために20-30年間まじめに通い続ける患者さんは途中からガンになった方は一人もいません。
ガンは基本的にならないように予防に徹するべきです。
残念ながら、なんらかの検査でガン告知を受け、すぐに三大標準治療を始めるケースがほとんどです。患者及びご家族の精神的ストレス、経済・介護負担だけでなく、患者さんご本人の身体的苦痛、寛解しても再発・転移の心配など、今までの平穏な生活が一気に崩れてしまうケースが多くあります。やはり最初からならないようにガン予防に注力すべきではないでしょうか。鍼灸は免疫力を高めますが、治療を受けたら、生活習慣を見直し、前のブログで挙げさせていただいた免疫力を下げるようなことをなるべく避けることで治療の効果を更に上げる・保持することができます。これは患者の皆様が毎日を丁寧に過ごすことで成し遂げられます。
余談ですが、免疫はご存じの通り、弱すぎるのも、語弊がありますが“強すぎて”、免疫が暴走するのも病気になってしまいます。程良いバランスの免疫を保つことが必要です。
ガンの標準治療はガイドラインに従い、手術、抗ガン剤による化学療法、放射線治療が挙げられます。日本ではあまり聞いたことはありませんが、実際こういった標準治療に加え、鍼灸による治療も併用することがあり、医療学会や専門誌に両者併用に関する研究報告も多く発表されています。なぜ積極的に鍼灸治療を取り入れるほうがいいのか、その理由の一つは鍼灸による免疫増強作用です。
抗ガン剤治療や放射線治療の弱点はやはりその副作用です。こういった治療の第一目標はいかに副作用対策を立てられるかで、ガンの塊がどれだけ小さくなったのかということではないと、言っても過言ではありません。一例として、診断によって違いますが、抗がん剤治療の1クールは数ヶ月かかります。つまりしっかりガン細胞を減らすにはそれだけ時間が必要です。しかし、抗ガン剤を使用し始めて一週間ぐらいから、ガンをやっつける免疫を担う白血球の数が減少してしまうという副作用が現れてきます。またその減少するスピードは速く、回復が追い付かないことがあり、投薬を中止せざるを得なくなります。血球減少以外に、ガン細胞をやっつける前に患者さんのからだの正常な細胞・組織は傷害されてしまい、ほかの病気、体力衰退が起こりえます。最近「腎障害」という言葉を聞きますが、抗癌剤のような薬によるものも少なくありません。一部の患者さんには免疫力低下による感染症、例えば肺炎、帯状疱疹など、そして血小板減少による内臓(脳を含め)出血の重篤な症状が出ます。また、出血しやすい一方で、血栓もできやすいため、副作用による塞栓症、血管・心臓障害に細心な注意を払う必要があります。
中国広州中医学大学付属祈福病院の腫瘍科と鍼灸科は共同で、三年二ヶ月にかけ60人の大腸ガン末期患者を対象に行った試みがあります。患者さん全員は既に肝臓への転移があり、58名は腫瘍摘出手術を受け、34名は化学療法を受けましたが、余命は1ヶ月だと診断され、全員は化学療法、放射線治療を放棄したケースです。そこで患者さんとご家族の同意を得て鍼灸治療を始めました。毎日1回、20回の治療が終わってから血液検査をしたところ、治療後のNK細胞(ナチュラルキラー細胞、ガン細胞を探出し・死滅させる白血球の一種で、ガン免疫を担う重要な免疫細胞)数は平均で治療前より77.8%も上昇しました。CD₃陽性T細胞は47.6%、うちCD₄陽性T細胞(免疫応答を助けるヘルパーT細胞、一部ガン細胞を殺傷するキラーT細胞へ分化する)は81.3%、CD₈陽性T細胞(ガン細胞を殺傷するキラーT細胞へ分化する)は38.9%上昇しました。中には3年も強く生き延びている患者さんがおられ、論文発表時も定期的に鍼灸外来で治療を続けているそうです。
同じく河南省中医学院第三付属病院、腫瘍病院など五つの病院が協同で、抗ガン剤による白血球減少に対する、隔物灸*19治療の研究を発表しました。化学療法を受けて白血球総数が平均で2,500/mm³前後(正常値は4,000~9,000/mm³)までに低下した、113名のガン患者に生姜隔物灸(生姜のスライスの上に直径25mm、高さ30mmのもぐさを置いて点火し、皮膚が赤くなって、患者さんに熱感があると、もぐさの灰だけを取り除く)を背中の9ツボに4壮ずつをすえ、1日1回、10日を続けた後に白血球を測定しました。113人中95人の白血球数は4,000以上になり(有効率は84.1%)、治療をやめた5日後に再度血液検査をし、白血球がまだ増え続けていた患者さんは全体の77.0%でした(治療後白血球の増加と保持は一~二週間で止まります、ずっと続くものではありません)。
広州市中医病院鍼灸科と広州中医薬大学付属第一病院の共同研究で、80名の肺ガンの入院患者を2組に分け、40名の患者に対し抗ガン剤点滴治療だけを行い、残りの40名の患者に抗ガン剤点滴治療を受けさせながら知熱灸*20治療も並行して行いました。両組の治療後の血中コロニー刺激因子(CSF)、IL-2を比べました。CSFは多能性造血幹細胞の分化を促進するサイトカインであり、多能性造血幹細胞から骨髄系幹細胞への分化・増殖をさせ、さらに顆粒球、単球(マクロファジ)、赤血球、巨核球(血小板を作る)への分化を刺激する役割です。抗がん剤とお灸治療を併用する組のCSFは治療前の0.2583から0.3382(pg/ml、平均値)に上昇しましたが、抗がん剤のみの組のCSF値は治療前に0.2573でしたが、治療後は0.2571となり、ほとんど変化はありませんでした。IL-2については、お灸を併用する組は治療前の2.7673(ng/ml、平均値)から3.9237に上昇し、抗ガン剤のみの組は2.7563から3.3577に上がりましたが、灸併用組より低い結果となりました。IL-2は前述のガン細胞を殺傷するキラーT細胞へ分化するCD₈陽性T細胞とNK細胞の増殖を誘導する免疫に関わるたんぱく質です。
抗ガン剤による骨髄抑制の副作用で、白血球は早い段階で大きく低下し、感染症にかかってしまうリスクを抑えたいため、白血球(具体的に白血球中の好中球)減少を改善するための製剤――顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)が開発され、現在広く応用されています。G-CSFを使いながら鍼灸治療も加えるとどうなるのか、宜昌市葛洲埧中心病院鍼灸科を始めとする5つの病院の臨床治験で、鍼灸治療はG-CSFの薬効を高めるだけでなく、G-CSF治療を止めた後にも白血球の低下を予防する効果があるとの結果を得ました。子宮内膜ガンで手術を受けた後、抗ガン剤を始めた86人の患者を無作為抽出し、G-CSF治療を受ける組とG-CSF治療+鍼治療組に分け、両組の白血球数は2,000台までに下がった時点で治療を始めました。観察期間は45日で、毎週血液検査をしましたが、途中のデータを省略して45日目の結果は、G-CSF組は5,000台に上がりましたが、G-CSF+鍼組は6,000台で維持していました。
人間の免疫力・免疫システムについて現時点で、私たちはまだまだ全体像をつかむことはできていません。単一の指標や数値だけで免疫力が高い・低いと評価するのはナンセンスですが、未来へとつなぐために、このような臨床データを積み重ねていくにはやはり意味のあることだと思います。
*19 隔物灸:間接灸の一つで、もぐさを直接皮膚の上で燃焼させるのではなく、艾炷と皮膚のあいだに物を置いて施灸する方法です。隔物灸としてよく使う物は生姜、にんにく、塩、味噌、枇杷の葉などです。
*20 知熱灸:米粒大、半米粒大の艾炷を直接皮膚の上に置き、火をつけた後、施術者の親指と人差し指で艾炷を覆い包むように酸欠状態を作り、患者の気持ちよいところで艾を取り除く方法です。患者は熱を感知しますが、やけどにならないため、知熱灸といいます。
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