どうして鍼灸は効くの?(90)-癌について
前回まではガンになるリスクを引き上げる生活習慣として、低体温の問題を述べましたが、今回は低白血球問題を考えます。
(2)低白血球
白血球の正常値はおよそ7,000/μL前後ですが、個人差が大きく、正常な変動範囲も広いです。およそ10,000/μLを超えると白血球増多症、3,000/μLを下回ると白血球減少症といわれています。7,000前後のほうがよいですが、健康診断を受けた患者さんから「白血球が少ないみたい」と伺い、患者さんの血液検査報告書を見ると、3,000~4,000台の方はけっこう多くて、正確的統計は見つかりませんが、なんとなく白血球の少ない方は多いというイメージを持っています。
ただ、体質的に少ない或いは多いという方もいらっしゃいます。それから病的なもの(例えば、骨髄の病気、自己免疫疾患など)を除き、一般的な白血球が少ない原因は次のように考えています。
①感染症・伝染病の減少
戦後から今日まで、日本の疾患構造は大きな変化がありました。以前の結核などの伝染病、寄生虫病から現在の生活習慣病に変わってきました。生活環境・社会インフラの改善、医学技術の進歩、医療・保健サービスの普及、社会保険・福祉制度の健全化などと直接な関係があります。病原微生物や寄生虫を外敵と喩えるなら、白血球は兵隊で、外敵がいなければと、兵隊も要らないというわけで、自然と白血球の数は減少していきます。
昨今のコロナ渦で、従来の風邪ウィルスにオミクロン株のような新たなウィルスが加わり、一部ではドミノ感染という事態も起きているようですが、治ると白血球の数はまた元に戻り、少し高い水準をキープすることはほぼありません。余談ですが最近、手足口病、プール熱、マイコプラズマ肺炎、EBウィルス感染症、麻疹(はしか)、溶連菌感染症などの病名をよく聞きますが、これらは昔から存在している感染症で、過度に怖がることはありません。自分のからだの状態と生活習慣を見直すいい機会だと思えばいいのではないでしょうか。つまり、自分の免疫力をバランスの良い状態で高く保てば、周りがどんなものが流行っていても、新しいウィルスができても、それらに打ち勝つができて、感染しないか、感染しても後遺症なく治せます。世界で100歳以上のご長寿の血液を調べたら、意外にも多くの感染症にかかってきたことがわかります。つまり、自然に感染症にかかり、自然なバランスの良い抗体を体内に持つことで、免疫力が上がり、逆に健康で長生きできると言えますので、過度に感染症を怖がらず、自分自身の免疫力、体力を良い状態にすることだけに集中しましょう。
②「殺菌・滅菌」のやりすぎ
赤ちゃんの頃から、殺菌・滅菌グッズを使うことが多いのではないでしょうか。間違いではありませんが、使い過ぎには気を付けたほうがいいと思います。有用な菌や無害な菌まで一緒になくなれば、免疫系のバランスが崩れ、自己免疫疾患のアトピー性皮膚炎、花粉症のようなアレルギー疾患にかかりやすくなるのはその一例です。「滅菌済み」「防菌処理済み」などの生活グッズはたくさん売られ、ついつい買ってしまいがちですが、使い過ぎは問題です。前に言ったように、細菌やウィルスが少なければ、それに対抗するための白血球は必要性が下がりますので、自然と白血球の数は減ります。
③薬
一日4種類以上の薬を飲む方は少なくありません、中には8、9種類以上を飲む方もいらっしゃるのではないでしょうか。これらの薬の中で脊髄造血機能を抑制し、白血球を減少させる薬が入っているかもしれません。例えば、風邪薬、鎮痛薬、胃酸抑制剤、降圧剤、糖尿病治療薬、アレルギー疾患の治療薬、膠原病の治療薬、また抗生物質、合成抗菌剤、抗癌剤、抗うつ剤、抗てんかん薬などなど、数多い治療薬には白血球(汎血球減少)、特に顆粒球を減少(無顆粒球症)する副作用があります。
例として、よく使われている非ステロイド抗炎鎮痛剤(NSAIDs)、代表としてはサリチル酸系のアスピリンです。アスピリンは解熱・消炎・鎮痛薬として100年以上の歴史もあります。母から聞いた話ですが、五十年前に母が県立病院で内科臨床医として働いていた頃、アスピリンを服用する患者さんに、血小板減少性紫斑・再生不良性貧血・白血球減少症などの副作用が現れた患者さんが数人いたそうです。その頃に、医学専門誌にもアスピリンの副作用について指摘されたため、病院長にアスピリンの臨床使用は慎重にと、1枚の処方箋は6錠に制限されていました。数十年後、今度はアスピリンの血小板抑制という副作用を利用して血栓予防・治療に用いられるようになり、現在、心房細動、心筋梗塞、脳梗塞、高血圧病、脂質異常症、糖尿病など広範囲、長期間で常用薬として使われています。血栓形成の予防になりましたが、長期間服用し続けると、免疫力低下の可能性はないとは言えないのではないでしょうか。この類の血小板抑制剤の功と過は、どのように評価したらよいか、実に難しいところです。今ドラッグストアでも簡単に同成分入りの薬が買えますが、常用の必要がある方は、基本的に専門医の受診を受け、薬に関するアドバイスを受けたほうがいいと思います。また、前回のブログにも書いたように、生活習慣病の薬の減薬をしたい時は、やはり病因の元である生活習慣を改善する努力が必要です。
次回はガン発症にかかわる「高ストレス感性」に少しふれていきます。
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