どうして鍼灸は効くの(75)?
3、骨のリモデリング状態の予測――骨代謝マーカー
骨粗しょう症の程度は骨量測定で判断できますが、骨量の動態的な変化や予測、また治療薬の評価や使用方針などについては、骨代謝マーカーで判断します。
骨代謝マーカーは、骨芽細胞の活動性を推測する骨形成マーカーおよび破骨細胞の活性を測定する骨吸収マーカーがあります。骨形成マーカーの代表として、血中のアルカリホスファターゼ(ALP)、骨型カルカリホスファターゼ(BAP)、オステオカルシン(OC)、Ⅰ型プロコラーゲンC端プロペプチド(PICP)、Ⅰ型プロコラーゲンN端プロペプチド(PINP)などがあります。骨吸収マーカーの代表は血中のⅠ型コラーゲンC末端テロペプチド(ICTP)、Ⅰ型コラーゲン架橋N端テロペプチド(NTx)、尿中のNTx、デオキシピリジノリン(DPD)などがあります。
(1)骨形成マーカー:
①アルカリホスファターゼ(ALP)、骨型カルカリホスファターゼ(BAP)
ALPは身体組織に存在するリン酸エステルを加水分解する反応を触媒する酵素です。おもに肝(ALP₂)、骨(ALP₃)、胎盤(ALP₄)、小腸(ALP₅)由来のものです。違うタイプのアイソザイム血中値の変化により、それぞれの内臓機能評価の参考となります。
骨型カルカリホスファターゼ(BAP)の血中値は年齢差があり、幼児期と思春期はもっとも高く、成人期はプラトーとなり、女性では閉経すると上昇します。BAPは骨芽細胞が活動的になる時に上昇することから、骨形成に関与すると考えられています。ただし、血中値が高いと単純に骨形成の亢進だけとは限りません。なぜなら、骨のリモデリングは骨吸収から始まり、先に破骨細胞が活性化し、破骨細胞がつくった吸収後の空間を埋めるために、骨芽細胞が活動し始め、新しい骨を作って(骨形成)その空洞を充填します。そのため、BAPの上昇は破骨細胞の活動が優位になったと考えてもよいです。女性では閉経してからBAPが高くなると骨粗しょう症の可能性があります。BAPが高いと骨折のリスクも高いという報告もあります。
②オステオカルシン(OC)
骨芽細胞でしか産生・分泌されない非コラーゲン性基質タンパクで、骨のリモデリングに際しては骨破壊(骨吸収)によって分解され血中に放出されます。OC値は新生児でもっとも高く、幼児期にかけて低下しますが、学童期で再上昇します。学童期を過ぎたら徐々に低下して成人値になります。50歳以上になると男女ともに再び上昇し、90歳以上になれば、成人値の2倍となります。50歳以上での高値は、破骨細胞の活動が優位になることを示唆されます。
③Ⅰ型プロコラーゲンC端プロペプチド(PICP)、Ⅰ型プロコラーゲンN端プロペプチド(PINP)
骨の化学成分は水(10~30%)、無機質(50~60% リン酸カルシウム、炭酸カルシウム)、有機質(25~35% コラーゲン)です。有機質のコラーゲン*6はプロコラーゲンとして骨芽細胞に合成され細胞外に放出されます。Ⅰ型プロコラーゲンはプロテアーゼという酵素により、C、N末端の両端が切断され、真ん中の3重らせん状の本体が骨基質に入りやすい形となり、骨基質に取り込まれ、残されたPICPとPINPは血中に入ります。血中のPICP、PINP値が骨基質のコラーゲン合成(骨形成)を反映し、ヒトの成長期に増加そ、女性の閉経後にはわずか上昇します。
(2)骨吸収マーカー:
①Ⅰ型コラーゲン架橋N端テロペプチド(NTx)
破骨細胞による骨吸収の際に、Ⅰ型コラーゲン両端のテロペプチドの部分が架橋構造の部分を含んで切断され血中に放出され、最終的には尿中に排出されます。血中および尿中のNTx量が骨吸収状態の指標となり、骨吸収亢進のときに高値を示します。
②デオキシピリジノリン(DPD)
ピリジノリン(PYD)とデオキシピリジノリン(DPD)はコラーゲン分子架橋成分として機能しています。PYDは骨以外に軟骨・歯・動脈・靭帯などコラーゲン線維にも存在しますが、DPDは骨基質のコラーゲンに限局して存在するので、骨に対する評価の特異性がより高いですが、両方ともに骨吸収による骨基質の破壊・溶解によって血中に放出されます。骨吸収が亢進するとき、血中・尿中のDPD値が高くなります。
③血中のⅠ型コラーゲンC末端テロペプチド(ICTP)
骨基質中のⅠ型コラーゲンが分解されるとき、血中に放出されるC末端テロペプチドのことを指し、骨吸収マーカーとして使われています。骨吸収が亢進すると上昇します。ヒトの成長期に高値を示しますが、女性の閉経後も上昇します。
次回は骨代謝に対する鍼灸治療の影響をみます。
*6 コラーゲン:人体に29種類のコラーゲンが存在し、総たんぱく質量の3分の1を占めます。コラーゲンは骨芽細胞、軟骨細胞、線維芽細胞から合成されて細胞外に放出されます。コラーゲンの構造は3本のポリペプチド鎖がより合わさって3重らせん状をし、コラーゲン分子と分子の間は決まった距離をあけて平行に並んでいます。また分子間はピリジノリンあるいはデオキシピリジノリンという物質が橋として、分子と分子を特有の架橋により束ねられコラーゲン線維となります。Ⅰ型コラーゲンは骨、皮膚、腱に多く、Ⅱ型コラーゲンは軟骨、Ⅲ型は結合組織、Ⅳ型は上皮組織の基底膜に多く存在します。コラーゲン分子の両端をC末端、N末端と呼び、両端の終末はらせん状の構造がなくなりほどけたような形となり、この部分をテロペプチドと呼び、抗原としての機能を有します。