どうして鍼灸は効くの(73)?
今日は昨年に引き続き、運動器ーよくあるあごの病気についてみます。
六、あごの病気
あごの病気でよくあって、鍼灸治療に来られるのは顎関節症で、顎関節は、肩・膝などの関節と比べると小さな関節ですが、実によく働く関節です。口を開けたり閉じたりして、例えば、食べる、話す、あくびをするなど、みんなこの関節による運動です。あごに違和感がある、歯を磨く時にうまく口を開けられない、物を食べて咀嚼するたび顎関節周りが痛い、口を開閉するときカクカク、コッキンコッキンと音がする、これら自覚症状があったら、顎関節の炎症が起きていると考えたほうがいいです。
顎関節は、頭蓋側頭骨の関節結節・下顎窩と頭蓋下顎骨の下顎頭から形成されています。二つの関節体の間には軟骨細胞を含む線維軟骨からなった関節円板が存在し、クッションの役割を果たし、関節の動きを滑らかにします。ほかの関節と同じように比較的ゆるい関節包に覆われています。食べるときなど、口を開閉する時に働く筋(咀嚼筋)は咬筋、側頭筋、外側翼突筋、内側翼突筋があり、これらの筋の働きで、下顎骨は上下、左右へ動くことができます。
顎関節は日常でよく使われる関節で、可動域が比較的広いですので、関節円板のずれ、磨耗が発生しやすい。ほかの関節症と同様に、関節の炎症・変形・脱臼などが生じる可能性があります。精神的ストレスの多い近代社会では、長時間が続く過度な緊張、「よし、頑張ろう」と歯を食いしばったりすることが多いように思えます。そのため、顎関節症のもう一つの大きな原因は、無意識のうちに、頻繁に歯を食いしばることで、関節まわりの筋肉に力が入りすぎて、筋・筋膜の筋傷害、関節靭帯の炎症などが考えられます。
顎関節症に対する鍼灸治療は千年も前からありまして、「口が開けられない」時に有効な治療法として知られていました。過去の資料に興味深い出来事の記事がありました。1971年、上海第二医科大学付属第九病院外科では「顎関節形成手術」の準備をしていました。患者さんは外傷により顎関節障害を起こし、関節周囲の筋肉がずっと硬直状態で、6年余りに口がうまく開けられなく、入院時に口の開きは2mmしかありませんでした。手術は鍼麻酔(麻酔薬の代わりに、麻酔効果のあるツボに鍼を刺鍼し、手術中にわたり鍼の刺激を持続的に行う手法です。麻酔薬適応でない患者、麻酔薬を準備できない環境で手術をしなければならない時に使われていました)で行う予定で、手術を開始する直前にツボへの刺鍼を始めました。ところが、鍼を手にある合谷穴、足にある公孫穴に刺鍼し、麻酔の手技をしている最中に、患者は突然口を開けました。20分後に口の開きは35mmまでに達したため、手術を取り止めたそうです。この患者さんはその後、普通にごはんを食べられるようになり、続けて4回の鍼治療を受けて退院したそうです。
実際には、鍼灸は顎関節症に対して良い治療効果があることはまだ一般的に知られていないかもしれませんが、当院の患者さんは1~数回の治療で完治する方が多いです。鍼で顎関節症を治療するメカニズムは今までのブログで述べてきた他の関節症と同様ですので、ご参考にいただければと思います(昨年5月14日から公開した「運動器の病気に対する鍼灸治療」あたりからです)。
道先案内猫、後ろ姿は堂々として、可愛い!
先日降った雪が、束の間の景色を残してくれました。
菜の花は咲き始めました。
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