どうして鍼灸は効くの(68)?
さて、しばらくは腰痛に代表されるような腰の病気に対する鍼灸の効果を書かせていただいております。鎮痛、血行改善、筋弛緩、消炎、免疫調節作用についてそれぞれ見てきましたが、今日は組織の修復促進作用、精神安定作用、自律神経調節作用を考えます。
6、細胞・組織の再生・修復に対する促進作用
通常、血流障害や炎症反応などによる細胞・組織の変性・壊死は避けられませんが、自分自身が持っている自然治癒力によって、早かれ遅かれ病変箇所を修復して復元することが可能です。しかし、何らかの原因で(例えば、加齢や慢性疾患など)この治癒力はだんだん弱くなったり、或いは適切な治療を受けられなく、最適な治療タイミングを逃したりしたため、組織の修復はうまく行えないこともよくあります。
どの病気も早いうちに治療を受ければ治りも良いです。というのは、病気の初期は細胞・組織の変性・壊死などの病理変化はまだ軽く、患者様ご自身の治癒力が強ければ簡単に病気の進行を止めやがて治します。自己治癒力が弱くなっても病気の初期に鍼灸治療を受ければこの治癒力を向上させ、それ以上の医療介入(薬・手術など)を要することなく、早めに病気を治癒することが可能です。患者さんから「一回で治ったよ」と言われることはしばしばありますが、こういうことを言っています。
組織損傷は細胞・組織の再生や結合組織の増殖によって修復されます。鍼灸は細胞・組織の再生を促進できるのは、熱ショックたんぱく質(HSP)、上皮成長因子(EGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、神経栄養因子(NT)などの生理活性物質の活性化、発現促進などによるものです。
7、精神安定作用
痛みや痺れなどの自覚症状があると、症状はずっとこのままでよくならなかったらどうしようか、いや更にどんどん悪化したらどうなるのか、そのうち動けなくなったらもう最悪だとか、非常に不安になりやすいです。不安の気持ちが強くなると痛みなどの自覚症状はさらに増幅するという悪循環に陥ります。鍼灸治療には精神安定作用という効果があります。このメカニズムは総合的なものですが、一つには鍼灸治療院で患者さんは鍼灸師とゆっくり話ができるため、病気になった原因、治療方法や改善の見込み、日常生活の注意事項などを話し合ったりします。話をするだけで患者さんは気分的にかなり落ちついてきます。もう一つ、鍼灸の刺激でセロトニンなどのモノアミンや内因性モルヒネ様物質の分泌を促進するため、治療すれば、患者さんの気分が楽になり、痛みなどの自覚症状も次第に軽く感じるようになります。
8、自律神経調節作用
痛みなどの自覚症状から、交感神経は興奮し優位になります。交感神経が優位にたつと、血管が収縮して血流が悪くなり、それで患部の筋肉が硬直して局所の血流はさらに停滞し、発痛物質の処理は遅くなります。つまり血流が悪くなると、炎症も痛みもひどくなります。
鍼灸の得意技としては副交感神経を優位にさせ、自律神経のバランスを調節することは今までのブログで何回か書かせていただきました。臨床治療で必要に応じて交感神経を興奮させる治療もありますが、ほとんどの場合は副交感神経が優位に働くようにします。副交感神経が優位になると、まず患者さんは気分的にリラックスし、そして血管が拡張して血流は改善されます。硬直状態の筋肉も弛緩し、痛みは緩和されますし、血流も更によく流れるようになります。それで患部周辺に溜まった炎症性物質や発痛物質などは素早く血流に乗り、処分されます。患部の炎症反応が軽減すれば、痛みはかなり減ってきます。痛みが軽くなれば、患者さんの精神的ストレスも減り、痛みに対する敏感度も減ります。つまり痛みの悪循環から徐々に解放されていきます。
次回は首の病気について見ていきます。
錦鯉も暑そうです。
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