症例紹介:原因不明の肝炎
こんにちは。渋谷区幡ヶ谷の胡鍼灸治療院です。
最近原因不明の肝炎を患った患者様の症例を報告させていただきます。
肝炎は急性肝炎と慢性肝炎があり、原因も様々です。炎症により肝細胞が破壊され、肝機能が低下する状態だと言います。よく聞くのはウィルス感染によるウィルス性肝炎、そして薬の服用による薬剤耐性肝炎です。それ以外に、アルコール性肝炎と自己免疫肝炎があります。自己免疫性肝炎は以前の症例紹介で書いたことがありますが、原因不明の難病指定で通常慢性的に経過をたどることが多いですが、急性肝炎様に発症するケースもあります。血液検査で異常値を示すのは主にAST、ALT、γーGTP、ALPの上昇が見られます。
患者様:50代女性(Sさん)
経過及び治療結果:
3ヶ月前に初診で来られたSさんですが、昨年秋から、患っていた口腔扁平苔癬が急に悪化して、それと同時期に健康診断で肝機能が異常値を示すようになり、原因不明の肝炎だと診断されました。肝炎に関しては、自覚症状はなく、今まで肝臓はいたって健康でしたので、ご本人もびっくりされたそうです。飲んでいたサプリメントなどをすべてやめても肝機能の数字はよくならず、肝炎ウィルスもなく、アルコールを飲まず、脂肪肝もありませんので、炎症の原因は見つからず、自己免疫性肝炎ではないかと病院で言われたそうです。ただ、とりあえず経過観察になり、口腔苔癬も悪化しているため、ステロイド薬を飲んでいません。自己免疫性肝炎は免疫細胞は自分の正常な肝細胞を攻撃し、肝細胞の破壊を継続的に起こす慢性的な病態です。
口腔扁平苔癬は口腔粘膜に発生する慢性炎症で、治療は難しいため、なかなか治らず、一部癌に進行してしまう可能性は指摘されております。またSさんは他の炎症性疾患も患っており、既に長い間炎症性体質でいたことは間違いありません。昨年何等かの突発的な出来事で更に発炎を加速してしまったと思われます。また、これがきっかげで免疫細胞が誤作動し、最も影響を受けやすい肝細胞の攻撃を始めたのではないでしょうか。
肝機能に関して、Sさんは昨年までの健康診断で正常だったにもかかわらず、秋ぐらいから急に悪くなったのが一番の心配事であることから、まず肝機能の回復に重点を置きました。同時に慢性的な炎症体質を改善することは根本的な治療になります。慢性炎症と鍼灸の関係に関して、以前のブログで言及したことがあり、ご興味のある方はそちらをご参照いただければ幸いです。
①鍼談灸話(2):老化を引起す慢性炎症に対する鍼灸治療①–炎症性サイトカイン(2016年12月8日)
②鍼談灸話(4):老化を引起す慢性炎症に対する鍼灸治療②–微小循環(2017年6月2日)
③鍼談灸話(6):老化を引起す慢性炎症に対する鍼灸治療③–胸腺の退縮(2017年9月15日)
④鍼談灸話(9) :老化を引起す慢性炎症に対する鍼灸治療④–自律神経調整(2019年3月15日)
Sさんは今年二月中旬から治療を始めて、三回の治療後に受けた血液検査で肝機能改善が見られました。AST、ALT共に下がり、正常値に戻りました。ALP、γーGTPの値も若干下がったもののまだ高値のため(この二つは下がりづらい傾向があります)、引き続き治療が必要です。
AST | ALT | ALP | γーGTP | |
治療開始前(22/1/13) | 44 | 54 | 126 | 128 |
三回治療後(22/3/22) | 38 | 43 | 124 | 123 |
参考(発病前の検査値) | 21 | 24 | 38 |
Sさんはその後仕事に復帰し大変お忙しくなったそうです。まだ鍼灸治療を始めて間もないですし、治療回数も限られており、肝(胆)機能は完全に回復したわけではないため、仕事のない日はなるべく体を休めて、質の良い栄養を摂るようにお話しております。現在も治療を続けていらっしゃるSさんですが、今後の経過を一緒に見ていきたいと思います。
余談になりますが、自己免疫疾患に関して、今後も少しずつ患者数が増えるような気がして。よくある関節リウマチ、I型糖尿病、全身性エリテマトーデス、リウマチ性多発筋痛症、自己免疫性甲状腺炎(バセドウ病、橋本病)、自己免疫性肝炎・胆管炎だけでなく、慢性疲労症候群、血管炎、原因不明な皮疹、原因不明な臓器出血などの症状も自己免疫性のものを疑ったほうがいいと思いますので、今後要注意です。
今年1月末に米国・ハーバード大学公衆衛生大学院の研究グループが「VITAL試験」で示した一つ有意義な結果です:ビタミンD3とオメガ3脂肪酸の正常摂取が厄介な自己免疫疾患の発病率を引き下げることが確認されました。これは約25,000人の50歳以上の被験者にビタミンD3或いはオメガ3脂肪酸を摂取してもらい、5年間追跡した結果、自己免疫疾患の発生率はそれぞれ22%と15%が減少したことを報告したものです。なるべくお食事から摂取するのが理想ですが、どうしても無理な場合は安全性の高いサプリメントで補うのもアリかと思います。
紫陽花は綺麗になってきました。
治療院近くの緑道もいろんなお花が咲いております。