どうして鍼灸は効くの(43)?
さて、前回のブログから始まった“鍼灸の生理活性物質に対する調節作用”、まずは活性酸素(ROS)とスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)を見ましたが、今日は“モノアミン”を説明いたします。
3、モノアミン
モノアミンは神経伝達物質の一族で、ドーパミン(DA)、ノルアドレナリン(NE、ノルエピネフリンともい言います)、セロトニン(5-HT、5-ヒドロキシトリプタミン)を含み、中のドーパミンとノルアドレナリンはカテコール核とアミンを含む側鎖を持つため、カテコラミン(カテコールアミンとも言う)と言われています。カテコラミンの生合成はチロシンというアミノ酸からそれぞれの酵素や補酵素によって生成されます。チロシンは食べ物から吸収されますが、フェニールアラニンという必須アミン酸から肝臓で変換されるものもあります。セロントニンは必須アミン酸であるトリプトファンから生合成されます。
ドーパミンを含有する神経細胞は主に黒質-線条体系に存在します。黒質は脳幹の中脳にあり、黒いメラニン色素を持つ神経細胞の集団で、線条体は終脳(大脳)における感覚運動統合機能を務める神経細胞の集団です。黒質の細胞でドーパミンが作られ軸索を通って線条体へ送り込まれ、線条体の被穀に貯えられています。
ノルアドレナリンは主に交感神経の節後神経細胞で作られ節後線維末端からシナプス結合部に放出します。ほかに副腎髄質や脳幹でも作られています。副腎髄質は本質的には交感神経節が特殊化した組織で、生成されるアドレナリンとノルアドレナリンはホルモンとして直接血中に放出されます。しかし、アドレナリンはホルモンとして機能しますが、ノルアドレナリンはホルモンとしての働きはほとんど認められず、その産生は交感神経の刺激により増加し、交感神経系と同じ生理効果をもたらします。
セロトニンは、食べ物に広く存在する必須アミノ酸であるトリプトファンから酵素により体内で生合成されます。その90%は胃腸管粘膜に、8~10%は血小板に、残りの1~2%は肥満細胞(マスト細胞)と脳に存在します。脳においては、松果体以外に主に脳幹の縫線核に存在し、細胞体から出す軸索より視床下部、辺縁系、脊髄などに投射します。
3種類のモノアミンは神経伝達物質としてそれぞれの役割を果たしますが、人間の精神活動に対しても非常に重要な働きをします。例えば、脳を覚醒させ、集中力と記憶力を高め、行動力を向上させ、情緒的には積極的な気持ち、快楽、安心感をもたらし、また痛みに対する鎮痛作用もあります。逆に、モノアミンが不足すると、神経機能と運動機能が低下し、意欲とやる気が湧いてこない、物事に無関心で、無気力で疲れやすい、落ち着かなくイライラする、パニック症状を起こしたり、あちこちに痛みを感じたり、食欲低下、不安、不眠といった症状がおこり、最終的にうつ病に至ることもあります。
近代医学の臨床ではうつ病を治療するために、カテコラミン分解酵素阻害薬、ノルアドレナリン・セロトニン再取り組み阻害薬などの抗うつ剤を処方され、いずれもモノアミンを増加させる目的がありますが、薬である限り、治療効果以外に様々な副作用を避けることはできません。
鍼灸臨床でうつ病などの精神障害症の治療を昔から広く行われ、確実的な治療効果があります。薬物療法と比べた場合の利点の一つに、薬依存などの副作用がまったくないというところで、自分の体の力が徐々によみがえり、症状が改善するたびに、病気を治す自信がつきますし、そのため再発も少ないです。なぜ鍼灸治療はうつ病によいのかについて、近年の研究でその理論的根拠は解明されつつあります。
広州中医薬大学はうつ病モデルラットを使っての実験結果です。ラットを三つの組に分け、一組は健常組、一組はモデル組、もう一組は治療組です。実験ラットに対して21日間、様々な刺激、また断水、断食などのストレスを加えてうつ病態を作りました。治療組のラットに1日1回、21日の鍼治療をしてから、中脳の視床下部と終脳の側頭葉深部にある海馬を取り出して、ノルアドレナリン(NE)、ドーパミン(DA)、セロトニン(5-HT)の量を測定しました。他の二組は鍼治療なしで脳に存在するそれぞれのモノアミン量を測り比べた結果は以下の表に示します。
表5、各組のモノアミン量の比較(⁻x±s,μg/g)
NE | DA | 5-HT | |
視床下部: | |||
健常組 | 7.46±1.55 | 18.37±2.02 | 2.54±0.52 |
モデル組 | 3.47±1.01 | 8.72±1.98 | 1.40±0.44 |
治療組 | 7.37±2.65 | 16.09±7.86 | 2.04±0.45 |
海馬: | |||
健常組 | 3.05±2.13 | 7.02±5.15 | 1.69±0.96 |
モデル組 | 1.33±0.27 | 2.38±0.64 | 0.52±0.30 |
治療組 | 2.17±0.74 | 6.69±1.50 | 1.45±0.69 |
以上のデータを見ると、激しいストレスでモデル組のラットの脳に含まれるモノアミン量はかなり減ってしまったことがわかります。一方で鍼灸治療を行った治療組は健常組(ストレスを加えていない組)のレベルまでに完全に回復していませんが、モデル組よりずっと多く、健常組に相当近いレベルまでに上がりました。
山東省中医薬研究所は更年期女性のうつ症状に対する鍼治療効果に関する研究結果です。山東中医薬大学付属第二病院精神科外来の患者さんから、60名の更年期障害によるうつ病の女性患者を選び、30名ずつを無作為抽出法で鍼治療組と対照組に分けました。治療組は、週に6日間を毎日1回鍼治療をし、1日を休んで、6週間を1治療コースにします。対照組はアメリカ産の抗うつ剤を6週間飲み続けます。両組とも治療を始める前と1治療コースが終わった直後に採決し、血中のモノアミン量を測りました。また、健常な更年期女性の血液検査データとも比較しました。その結果は下の表に示します。
表6、両組の治療前後と健常者との血中モノアミンの比較(⁻x±s,ng/L)
組別 | 人数 | 治療前後 | 5–HIAA*13 | NE | DA |
健常組 | 15 | 2615.8±913.6 | 55.1±17.6 | 76.3±36.5 | |
治療組 | 30 | 治療前 | 1304.1±340.1 | 29.1±11.2 | 43.7±20.6 |
治療後 | 2472.5±953.3 | 39.2±9.6 | 78.0±36.7 | ||
対照組 | 30 | 治療前 | 1211.6±310.3 | 30.5±10.7 | 39.1±18.4 |
治療後 | 2439.2±927.4 | 41.3±8.7 | 49.8±26.2 |
表6の数字を見ると、うつ病と診断された患者さんの血中モノアミン量は健常な更年期女性より低いことがわかります。鍼治療と薬物治療を受けた患者さんは両方とも血中モノアミンはかなり増え、5-HIAA値は健常者に近いレベルまで、NE値は健常者と比べまだ低いですが、DA値は鍼治療組が健常者よりも高いレベルまでに増えたことが注目されています。
*13 5-HIAA:セロトニン(5-HT)の主要な代謝産物です。酵素のモノアミンオキシダーゼ(MAO)の働きで脱アミノ化され、5-ハイドロキシインドールアセトアルデヒドになり、さらに酵素のアルデヒドデヒドロゲナーゼにより5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA)に変化します。5-HIAAは血中から尿中に排泄され、血液と尿中の5-HIAAの増減により体内のセロトニンの変動を推察できます。
梅雨晴れの空。
トカゲ!
若い時は苦手だったでしょうが、今は4本脚のトカゲはとても可愛いく感じます。顔も体もかっこういい!
こちらはカタツムリ。
ふわふわ!
そこら辺にある可愛いお花。ドクダミの葉っぱを乾燥してお茶で飲むと解毒作用があると言われております。
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