どうして鍼灸は効くの(40)?
鍼灸治療による内臓反射が循環系及び呼吸系に対する調節作用を見てきましたが、今回は消化系の話をします。
(3)消化系に対する調節作用
① 胃腸機能に対する影響
頭部、手と足のツボに刺鍼する瞬間に、かなりの確率で「グ~」という大きな腸鳴音が聞こえてきます。これこそ典型的な体性―自律反射です。上脊髄反射によって迷走神経(副交感神経)の活動が反射的に高まり、胃腸の蠕動と分泌が活発になるのです。臨床では胃もたれ、消化不良、便秘、無酸症、胃下垂、委縮性胃炎などの治療にこの反射を活用しています。
逆に胃酸過多症、胃けいれん、逆流性食道炎、下痢などの病気と症状には、脊髄反射を利用して交感神経の活動を高めて、胃腸の過度運動と過剰分泌を抑制する効果を得るための治療を行います。胃腸の皮膚分節は第6胸神経から第12胸神経まで(T6〜T12)です。脊柱両側に華佗夾脊穴がずらりと並んでいますし、足の太陽膀胱経の膈・肝・胆・脾・胃などの兪穴も並んでいます。これらのツボを症状に合わせて選んで鍼と灸をすれば、治療効果はてき面に現れてきます。
② 肝・胆・膵臓に対する影響
鍼灸治療は肝、胆、膵臓の病気を治すメカニズムは総合的なものですが、なかで体性-自律反射とも関係しております。中国広西中医学院附属瑞康病院は60人の非アルコール性脂肪性肝炎の外来患者を対象にし、背中にある隔兪、肝兪などのツボに羊腸糸の埋め込み治療*11を行った結果は、BMI(体重「Kg」/身長「M」²で計算される。疾病率がもっとも少ないBMI値は22とされている)と肥満度が低下し、肝機能と血中脂質ともに改善され、CT診断でも肝脂肪量が減少したのでした。脂肪性肝炎が改善された理由の一つは、脊髄反射によって交感神経の活動が向上させ、副腎髄質からアドレナリン、ノルアドレナリンの分泌が増加することによって、細胞膜にあるアデニル酸シクラーゼ*12が活性化され、サイクリックAMP(cAMP)の生成が増加し、結果、脂肪の分解は促進され血中脂質は減少したのです。
食事から摂取した脂肪がすぐに消化と吸収できないので、まず胆汁酸などによって乳化されて小さな脂肪滴になってから消化液の分解作用で脂肪酸の形で吸収されます。胆汁酸は胆汁の重要な成分で肝細胞から分泌されます。食事をしていないときは胆汁が胆嚢内で濃縮され、食事をするとき胆嚢から排出されて脂肪の乳化に関与します。
胆汁が胆嚢からの排出は消化管ホルモンに大いに影響されますが、自律神経の活動によっても調節されます。胆汁の排出は迷走神経(副交感神経)によって促進され交感神経によって抑制されます。鍼灸臨床で自律神経のバランスを調節することで、胆管括約筋の弛緩、胆嚢の収縮、胆汁の分泌・排出を促進されます。この作用により胆石症の痛みを緩和し胆石の排出を促進し、胆石の予防にも役立っております。
ヒトの膵臓の重さは100g未満ですが、毎日1Lの消化液(膵液)を分泌しています。膵臓には内分泌細胞(膵島細胞)と外分泌細胞(腺房細胞)があります。膵島細胞はランゲルハンス島に存在し、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチンなどのホルモンを放出します。腺房細胞から分泌する消化液には炭水化物、タンパク質、脂質など主要栄養素すべてを消化できる酵素が含まれます。消化酵素の分泌は消化管ホルモンにコントロールされますが、自律神経の活動にも影響されます。
迷走神経は膵臓の内・外分泌腺を支配し、迷走神経の興奮により膵液の分泌を促進されます。膵臓の血管は交感神経に支配され、交感神経の興奮で血管収縮し血流が減少するので、膵液の分泌は抑制されます。
膵臓の病気はみなさんによく知られているのは糖尿病ですが、ほかに急・慢性膵炎は臨床でよく診られる疾患です。膵炎は膵臓から分泌される消化酵素によって、膵臓自身が消化されてしまう病気なので、鍼灸での治療目的はいかに迷走神経の活性を低下させ、交感神経の活動を高揚させることにあります。これによって膵液の分泌は抑制され炎症や痛みなどの症状は緩和されます。鍼灸の糖尿病に対する影響は今後の臨床篇で紹介できたらと思います。また本院では糖尿病・前糖尿病の治療成功率は高く、今まで治療しても効果はないという症例はまだありません。具体的な症例(一部)はこのホームページの「症例紹介」か、同ブログの「症例紹介」などでご覧くださいませ。
*11 羊腸線埋め込み療法:羊の腸を加工・滅菌した埋め込み専用の糸である。生体の皮下・結合組織などに埋め込んで、免疫系疾患、頑固な皮膚病、婦人科疾患、肥満などに応用し、慢性病・難病に特別な治療効果があります。中国中医学臨床で使う治療法の一つですが、日本で数十年前に、異種タンパクを(たとえば牛の臓器から採ったもの)喘息など頑症の治療のため皮下に移入する治療法がありましたが、現在この種の医療方法は西洋医学の臨床では完全に消えました。
*12 アデニル酸シクラーゼ:細胞膜に存在する酵素です。神経伝達物質やホルモンがGタンパクを介してアデニル酸シクラーゼを活性化させます。活性化したアデニル酸シクラーゼはATPをcAMPに転換させ、濃度が上昇したcAMPは第二のメッセンジャーとして次の酵素(例えばタンパクリン酸化酵素のプロテインキナーゼ)を活性化させ、一連の反応を引き起こします。
引き続き、道端お花シリーズ^-^。