どうして鍼灸は効くの(31)?
前回では鍼による心筋収縮力の増強作用についてみましたが、今回は血液粘性に影響する「活性酸素」と鍼との関係をみます。
(2)活性酸素の降下作用
中国、日本や諸国において細胞老化に対抗して、鍼灸はどんな役割を果たしているかに関する研究は数々ありました。その結果、鍼灸がスーパーオキシド(O₂⁻)、ヒドロキシラジカル(・OH)などの活性酸素の産生を抑制する効果があることがわかってきました。体内の活性酸素を減らす主なメカニズムは、体内の抗酸化酵素のスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の活性を向上させ、余った活性酸素を除去します。
数多くの研究報告から二、三例を挙げます。中国黒竜江省中医薬大学をはじめとする研究グループは、同じ体重の実験用ラットを老年ラット(生後20〜22ヶ月)刺鍼組、老年対照組(ハリをしない)と若年組(生後5〜6ヶ月)に分け、老年刺鍼組に1日に1回、21日間ハリ刺激をしてから、脳・心・肝臓・腎臓のSOD活性とマロンジアルデヒド(malondialdehyde MDA)の量を測定しました。MDAは脂質過酸化分解生成物の一つで、MDAの値が高くなると細胞膜などの脂質酸化損傷はひどくなるとみられ、脂質酸化損傷マーカーとしてよく使われています。
鍼をした老年組のラットは対照組に比べると、SODの量が有意義に上昇し、特に肝臓での上昇率は著しいです。次は脳・心・腎という順で増加します。増加後のSODレベルは若年組のラットと比べるとほとんど差はありません。刺鍼老年組ラットのMDAの量は脳・心・肝・腎の順で明らかに下がり、若年組との大きな違いは見られません。
つまり、これら研究の結論からは、鍼刺激により抗酸化酵素の活性を高め、活性酸素の生成を抑制し、細胞膜の脂質過酸化を予防できるということがわかります。
また、お灸(モグサ)で活性酸素を除去する効果についても世界で多数の研究報告があります。例えば、中国の中南民族大学や貴陽中医学院などからは、モグサを燃焼して得た生成物による活性酸素に対抗する能力を分析した実験があります。
モグサを燃やすと、煙、オイル(精油)、灰などが出ます。煙を収集して有機溶液に溶かしてから蒸留し、得た褐黒の油焦物を分析すると、中に鑑定できる成分は36種類があります。実験材料としての活性酸素である1,1-ジフェニル-2-ビクリルヒドラジルフリーラジカル(DPPH)を溶液に溶かし、このDPPH液に順番に油焦物、オイル、灰から提出した結晶の有機溶液を加えて、分光光度計でフリーラジカルに対する除去率を分析しました。油焦物のフリーラジカルに対する除去率は最も高く(45.42%)、最も低いのはモグサのオイルでした(28.74%)。油焦物の中に一番作用を発揮したのは5-tert-ブチルピロガロールという成分で、5-tert-ブチルピロガロールのフリーラジカル除去率はビタミンCの1.55倍、酸化防止剤のジブチルヒドロキシトルエン(BHT)の1.21倍です。
貴陽中医学院第二付属病院鍼灸科は48人の高血圧患者さんを対象に、お灸が抗酸化酵素スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)と脂質過酸化分解生成物のマロンジアルデヒド(MDA)に対する影響を研究しました。お灸の治療(やけどにならない温灸)は一日に一回、20回を続けた後血液検査をしたところ、血液のSODとMDAの量を治療する前の血液検査結果と比べ、SODは明らかに上昇し(60.97±18.05から110.18±33.25 U/mlに)、MDAも有意義に下降しました(8.76±3.04から6.01±1.70 nmol/mlに)。この結果は灸治療でも抗酸化酵素の量と活性を高め、過酸化脂質とその分解生成を低下させる効果が明らかになりました。では血圧はどうなったでしょうか。収縮圧は治療前の162.63±17.25から治療後の147.04±19.51 mmHgに、拡張圧は治療前の95.91±1.82から84.5±9.49 mmHgに下降した結果が出て、高血圧が改善されました。
次回は鍼灸治療が血管拡張への役割を見ていきます。
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