鍼談灸話(5):目に見える「経絡現象」
こんにちは。渋谷区幡ヶ谷の胡鍼灸治療院です。
まず下の写真を見てください。
これは私の携帯で撮ったSさんの左手首に刺鍼したときの写真です。何の画像加工もせず、大変見づらくて申し訳ございませんが、説明させていただきます。
この写真は手首にある「内関」と「神門」に刺鍼した時のものです。「神門」に関しては、今回の主題から外れるため、「内関」だけに絞り、考えていきたいと思います。
「内関」(「ないかん」と読みます)は手首の横紋から腕のほうに上り、指三本分(人差し指、中指、薬指をそろえた時の横幅ぐらい)のところにある、「手の厥陰心包経」という経絡上にあるツボ(経穴)です。解剖学的に言えば、長掌筋腱と橈側手根屈筋腱に間にあり、正中神経、前骨間動脈が通っています。心疾患、吐き気、ストレス、免疫力の低下、不眠時によくとるツボの一つです。また、まだ病気はありませんが、病気にならないための予防、健康増進のために必ずと言っていいぐらい、私が好んでとるツボです。
Sさんは鍼にとても敏感で、一般な方より敏感に反応することがありますので、お願いして写真を撮らせていただきました。みなさま、「内関」から手首の横紋に向かって、真っ直ぐに一本の赤い線が皮膚表面に見えるのでしょうか。「内関」の周りにフレアー現象も確認できると思います。
どうでしょう。見づらくて、申し訳ございません。「そう言われれば、何となく見えるような気もする」という程度でしょうか。もう少し感度の良いカメラで撮れば、きちんと見えたでしょう。
前置きが長くなってしまいましたが、この赤い線こそが今回お話したい「経絡現象」です。Sさんの手首に出現した一本の赤い線がちょうど「内関」が属する「手の厥陰心包経」の経絡の走行そのものです。「内関」に一本の鍼を浅く刺しただけなのに、ほぼ7センチ先まで、経絡に沿うような形で皮膚が赤くなり、一本の線のように見えます。
「経絡現象」はツボに刺鍼すると、経絡の走行にそって鈍痛様のしびれ感などの感覚が現れる現象を言い、加えて、発赤、色素沈着など様々は反応が出現することがあります。Sさんに確認するところ、「内関」から手首に走るしびれ感を感じる時に、このような赤い線が現れることが多いそうです。
「経絡現象」の提唱者は日本の長濱善夫、丸山昌朗のお二方です。お二方の研究の概要です:「患者の主として原穴に刺鍼(1-3mm)して鍼響を確認した後、鍼響が徐々に時間経過と共に伝達される状態を皮膚面上に描画し、古典に示される経絡の流注(走行)との比較研究を行った。その結果、神経、脈管系の走行とは全く異なり、かえって経絡の走行と酷似した感覚圏を認め、経絡研究の一つの端緒を得た」(医道の日本社、新版「経絡経穴概論」P232&P233による)
その後、経絡現象は中国で「循経感伝現象(PSM:Propagated Sensation along the Meridian)」と翻訳されました。また、以下の定義が付け加えられました:刺鍼による、酸(だるい)・脹(はれぼったい)・重(おもたい)・麻(しびれる)などの感覚と、身体が締め付けられるような反応を得気と呼び、これらの感覚が経絡に沿ってゆっくりと走る現象です。
現代科学では、まだツボと経絡を視覚情報として確認できませんが、経絡現象により、経絡の走行を「見る」ことができます。経絡に沿う発赤反応は珍しく、極一部の患者さんからしかこのような反応を見ることはできません。また、経絡現象は病気のある経絡上に現れることが多いため、「証」を決める(=西洋医学で言う「診断」)時にも使われます。