鍼談灸話(3):慢性腎盂腎炎に対する鍼灸治療
こんにちは。渋谷区幡ヶ谷の胡鍼灸治療院です。
今月9日は「世界腎臓デー」です。現在世界中で慢性腎臓病(CKD)の罹患率が高くなり、日本においても1千万人を超える慢性腎臓病の患者がいると推計され、新たな国民病になってきました。
慢性腎臓病の末期状態は慢性腎不全で、完治できませんので、いずれ透析療法や腎移植が必要となりますが、早期発見・早期治療すれば、治癒も十分期待できる病気でもあります。
慢性腎臓病の早期発見(初期では全く無症状ですので、要注意です)は、尿検査と血液検査を行います。
尿検査:尿たんぱくを調べる、検査結果は「-」、「±」、「1+」、「2+」などと表記され、「1+」以上であれば、慢性腎臓病の可能性があります。
血液検査:GFR(糸球体ろ過量)が60未満の場合、慢性腎臓病が疑われます。
慢性腎臓病が進行すると、脳卒中、心筋梗塞、認知症の発症率が上がります。危険因子となる生活習慣と原因疾患には高血圧、動脈硬化、肥満、タバコ、加齢、糖尿病、脂質異常症、慢性糸球体腎炎、慢性腎盂腎炎、IgA腎症などがあります。
日常生活では、上記の危険因子を避けるような生活習慣が求められます。例えば、禁煙、血圧管理、肥満解消、血糖管理、運動などです。また食事の面では、食べ過ぎない、塩分を取り過ぎないなどの心がけがまず必要です。
今日は、慢性腎臓病を引起す病気の一つ「慢性腎盂腎炎」に対する鍼灸治療をお話します。
慢性腎盂腎炎は尿流障害により、大腸菌などの細菌が逆流した尿に伴い、腎盂に達し感染を繰り返し起こす病態です。急性期の治療は疎かになると、慢性化しやすく、また急激に腎不全になるケースもあります。治療には、抗生物質の長期投与が必要ですが、副作用の懸念(免疫力の低下や耐性菌の問題など)は言うまでもありません。
東洋医学では、慢性腎盂腎炎は「淋証」に属し、関連する主な臓腑は「腎」、「膀胱」、「脾」です。鍼灸の治療目標は:
①免疫力の向上
②局所および全身の血流改善
③局所炎症に対する抗炎症作用
④健脾除湿、補腎化於。
慢性腎盂腎炎の患者さんを対象とした鍼灸の臨床試験では、薬物治療のような副作用はなく、高い治療効果が得られたという治療データがあります。例えば中国・洪建雲中医師らの臨床研究では、35人の女性患者さんに三ヶ月間鍼灸施術のみを行ったところ、治癒率が65.7%、全員の自覚症状(残尿感、下腹部の違和感、腰痛など)が改善されたという結果が確認されました。ここの「治癒」の定義は、自覚症状が消え、中間尿の細菌検査が陰性、2-6週間後の再検査においても、細菌陰性であると定義しています。
ただし、尿流障害を引起した原因疾患がはっきりとしている場合、例えば、尿路結石、尿路系の悪性腫瘍、前立腺肥大症などが確認されたら、これらの原因疾患に対する適切な治療(外科処置、薬物療法)も同時行わなければなりません。
通常の薬物療法と同時に、或いはそれ以外に、鍼灸治療もひとつの有効な選択肢です。
今週の待合室のお花です。ハーブのいい香りが漂います。