どうして鍼灸は効くの?(83)-糖尿病及びその予備軍
前回のブログで、糖尿病性末梢神経障害において、鍼灸治療が効く仕組み及び臨床試験の結果を具体的に示しましたが、今回は糖尿病性腎症の改善作用に関して考えます。
(4)糖尿病性腎症の改善作用
糖尿病だとわかるのはほとんど健康診断やほかの病気で血液検査をするときです。というのは、糖尿病の合併症による自覚症状さえ現れてこなければ、痛くも痒くもないからです。これは糖尿病の怖いところでもあります。いったん「おかしいな~」と思うような自覚症状があったら、相当病気が進行しています。
自覚症状がない場合、血液検査で血糖値やHbA1cが高いといわれても、糖尿病はどこまで進行しているかはっきりわかりません。そういう時は腎機能状態を知れば、ほぼ推測できます。腎臓の働き具合を調べることによって、合併症としての糖尿病性腎症の進み具合が分かります。
尿生成の大まかなプロセスは、腎臓の糸球体で血液を濾過して老廃物質や有害物質を含む原尿を生成し、尿細管で原尿から体にとって有用な物質や水分を再吸収して終尿を生成します。終尿は尿管により膀胱へ流され体外へ排出されます。
正常な糸球体はほとんどたんぱく質を濾過せず、濾過した微量のアルブミン*15でも尿細管により再吸収されます。そのため、腎機能検査で正常の場合、尿中にたんぱく質はないはずです。ところが、糸球体が正常に機能できなくなった場合(腎症)は、微量のアルブミン(尿中微量アルブミン UAE)は尿中に出てきます。糖尿病性腎症の進行病期は5期*16に分かれています。腎症前期(第1期)の尿中UAEは正常範囲ですが、早期腎症期(第2期)となると尿中のUAEは正常範囲を上回ります。そのため、尿中の微量アルブミンの測定で糖尿病進行状態を推測でき、早期腎症の発見もできます。ほかにも、いくつかの腎症の進行状態、治療効果・予後などを測定する指標がありますが、のちに述べます。
鍼灸の糖尿病性腎症に対する治療効果に関して、中国天津市中医病院鍼灸科の研究グループは長年をかけて鍼灸の臨床治験をまとめました。その臨床効果を表わすために使った指標は、
①尿UAE、
②尿β2-ミクログロブリン(β2-MG)、
③尿単球走化性タンパク1(MCP-1)、
④血液クレアチニン(Cr)、
⑤血液尿素窒素(BUN)、
⑥糸球体濾過量(GFR)、
⑦腎動脈内径(D)と腎血流速度(収縮期腎動脈最高血流速度Vmax、拡張終末期腎動脈血流速度Vmin)、
⑧腎血流速度時間積分値(VTI)、
⑨腎動脈血流量(Q)、
⑩腎血流抵抗係数(RI)
があります。
②のβ2-ミクログロブリン(β2-MG)はあらゆる細胞で産生するたんぱく質ですが、血中にでるものは主にリンパ系細胞から由来します。β2-MGは糸球体で濾過された後、100%近く尿細管で再吸収されます。尿中に排出量が増加すると尿細管損傷の進行程度を推測されます。
③の単球走化性タンパク1(MCP-1)は走化性因子の一つ、単球やリンパ球を病所への游走を誘導だけでなく、単球をマクロファージへの変身、細胞内のライソゾームという消化酵素や活性酸素の放出を促進、炎症性サイトカインのIL-1、IL-6の産生を誘導、単球・リンパ球などの炎症性細胞が組織への浸潤を誘導するなどの働きを持っています。有害微生物の侵入に対抗するにはよいですが、腎症の場合、糸球体や周囲組織の破壊をもたらす望まない作用をしてしまします。
④のクレアチニン(Cr)はクレアチンリン酸(筋肉収縮時のエネルギー供給源)の代謝産物です。筋肉で作られたあと血中に放出され、糸球体で濾過されれば、ほとんど再吸収されずに尿中に排出します。腎臓の濾過機能が低下すると、血中値は上昇します。
⑤の尿素窒素(BUN)は血中の尿素の量を示す指標です。尿素はたんぱく質の終末代謝産物であり、アミノ酸から生じたアンモニアと二酸化炭素(CO₂)から肝臓で合成され、腎臓から排出されます。血中濃度は主に糸球体の濾過機能を反映し、腎不全などの腎障害の場合にはBUNが上昇します。
⑥の糸球体濾過量(GFR)は決まった時間内に腎臓のすべての糸球体により濾過される血漿量です。決まった時間というと、1分間か1日の濾過量であり、臨床でよくクレアチニン値で計算した推定糸球体濾過量(eGFR)を使っています。糖尿病性腎症の初期ではGFRは一時的に上昇しますが、後に減少する一方で、腎症の進行度を測定できます。
⑦腎動脈内径(D)と腎血流速度(収縮期腎動脈最高血流速度Vmax、拡張終末期腎動脈血流速度Vmin)、⑧腎血流速度時間積分値(VTI)、⑨腎動脈血流量(Q)、⑩腎血流抵抗係数(RI)の四つの指標は腎の血流動力学的なデータです。腎動脈内径の増大、腎血流速度・腎血流速度時間積分値や腎動脈血流量の増加、腎血流抵抗係数の下降は腎臓の濾過効能に有利となります。
次回では具体的な臨床治験の内容をみていきます。
*15 アルブミン:血漿タンパク質の一つです。アルブミン以外に、グロブリン、フィブリノゲンなどがあります。現在アルブミンは80種類以上が同定され、血漿総タンパクのうち最も多いタンパク質であり、膠質浸透圧の維持などに重要な役割をしています。また、肝臓で合成されるので、肝機能・身体の栄養状態の指標ともなります。
*16 糖尿病性腎症病期分類(2014):第1期(腎症前期)の尿中アルブミン(UAE)は30mg/gCr以下で、第2期(早期腎症期)のUAEは30~299mgとなり、第3期(顕性腎症期)は300以上になり、第4期(腎不全期)と第5期(透析療法期)は人工透析が必要となります。
ソシン蝋梅、とてもいい香りです。
紅梅も白梅も、それぞれの独特な香りを放ちます。
冬の林
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