鍼談灸話(11):Nature誌 鍼灸が新型コロナの重症化を抑制する根拠を示す。
こんにちは。渋谷区幡ヶ谷の胡鍼灸治療院です。
10月13日に、ネイチャー誌(全世界で最も権威のある、最も読まれている科学誌の一つ)に鍼灸に関する論文が掲載され、その上、この発見は生物電子医学という新しい研究分野において、特定の体表刺激が身体機能を調節するデザインを提示したと論評されております。
この研究は特定のツボに鍼治療を施し、炎症性サイトカインストームを抑えたことを実証し、異なる部位にあるツボを鍼刺激すれば、異なる抗炎症効果が得られ、経絡上にあるツボの治療効果を裏付ける神経解剖学的エビデンスを示しました。
実際の内容はニューロン、神経反射、迷走神経ー副腎抗炎症回路などに関連し、より広範にわたりますが、ここでは新型コロナウィルスによる重症化に特化した部分のみを見ていきます。当治療院ブログ「新型コロナウィルス性肺炎に対する鍼灸治療の現場」(2020年4月3日に公開済)では、中国・武漢市にある重症患者を受け入れた二つの病院における症例を紹介させていただきました。この中で、一刻を争う治療現場でいかに鍼灸治療が重症患者の命を救ってきたか、一端を垣間見ることができました。その後の同年4月19日に、ブログ「”重症化しない”がキーワードーwithコロナ時代に生きる」において、なぜ、鍼灸治療が重症化を防げるのかについて、個人的な見解を述べさせていただきました。このブログの中で「炎症性サイトカインストーム」という言葉を使わせていただきました。
さて、ネイチャー誌の論文に戻ります。炎症性サイトカインストームに陥った実験用ラットを使い、研究目的に合致した、事前に選定した特定ツボに鍼を刺鍼し治療を施した結果、重症化したラットの生存率をもとの20-30%から70%までに引き上げ、大多数のラットが死を免れたという実験結果を出しました。前述のブログでも述べたように、新型コロナウィルスによる重症化の一因に、主に炎症性サイトカインストームが考えられ、肺炎のみならず、全身の血管、臓器において重度な炎症が起こり、多臓器不全、血栓症、心筋障害等による死亡例が多数報告されております。いかにこの炎症性サイトカインストームを早く”消す”かは重症化治療のキーワードになります。同論文では、特定ツボに対する鍼刺激は重症化後の治療だけでなく、重症化を予防するためにも同様な抑制効果があるとも述べております。
2020年初、新型コロナウィルスによる初症例が確認された後間もなく、死亡症例から炎症性サイトカインストームという認識がありました。同論文は、鍼灸治療の優れたところは、個別炎症因子でなく、抗炎症回路の全般に対して調整効果が発揮できるという認識に基づいております。
抗炎症回路に対する調整という考え方は、素晴らしいことに、40年も前から日本の佐藤章先生らの研究がベースになっております。体表の特定部位(皮膚や筋)を刺激することで、自律神経反射を起こすことができ、また神経反射を通して遠位にある該当神経支配の内臓機能を調節できます。これに関しては、以下のブログでも関わる話をご確認いただけます。
・2016年3月18日:「どうして鍼灸は効くの(3)? →鍼鎮痛③:体性ー自律反射」
・2020年1月17日:「どうして鍼灸は効くの(35)?」
・2020年5月 8日:「どうして鍼灸は効くの(40)?」
余談になりますが、この論文が引用する参照論文に日本人学者によるものが多数あることに気づき、大変嬉しく思いました(しかし、今、日本発信の同等な研究も見たいな。。。という残念な気持ちにもなりました)。
当治療院では、上記論文で使われた特定ツボ(足の陽明胃経上にある「足三里」)を長年、ほぼすべての患者さんに対して必ず取るツボの一つです。このツボは昔から免疫力を上げると言われてきましたが、このように免疫の誤作動を抑制する効果もあります。