どうして鍼灸は効くの(60)?
ここしばらく、鍼灸の免疫調節機能について考えてきました。今日は自律神経の話ですが、今まで書いた内容の中で所々自律神経に触れてきましたので、同シリーズの今までの話をご参考いただければと思います。
6、自律神経による免疫調節
日本国内ではかつて、安保徹先生(医学博士)を始めとして免疫系と自律神経との関係を確定し、「白血球の自律神経支配」学説が提出されました。この学説の一部をまとめてみます:
・白血球には顆粒球、リンパ球、単球(マクロファージなど)があります。通常の血液中には顆粒球が約60%、リンパ球が35%、単球が5%の割合で分布しています。この割合は個人のライフスタイルによって変化します。
・顆粒球の細胞膜はアドレナリンレセプターをもち、交感神経が緊張(優位になる)すると、顆粒球の分裂が盛んになり数が増えます。リンパ球の細胞膜はアセチルコリンレセプターをもち、副交感神経が優位になるとその数が応じて増加します。
・悩み・不安・恐怖・緊張などの精神的ストレスや過労などで交感神経が長期間に緊張しつづけると、免疫力が全般的に下がります。そのため、普段感染しないような非常に弱い常在菌・ウイルスにも感染してしまいます。
・交感神経が常に緊張すると顆粒球が増えれば、組織や臓器が破壊されやすく、突発性難聴、歯周病、十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、腎盂腎炎、間質性肺炎などの炎症性病気になりやすくなります。逆に副交感神経が常に優位になれば、リンパ球が増え、それによりアトピー性皮膚炎、気管支喘息、蕁麻疹、花粉症などのアレルギー性疾患になりやすくなります。
つまり、免疫系における顆粒球とリンパ球のバランスは非常に重要ですが、そのバランスを支配しているのは実に交感神経と副交感神経のバランスです。西洋医学の臨床では交感神経と副交感神経のバランスを調節する特薬などはなく、自律神経バランスの失調による様々なアレルギー性疾患・自己免疫疾患などに対する根本治療はできておりません。また、免疫力を向上させ感染症予防できる薬もありません。それに対して、このシリーズの前文で述べたように、交感神経と副交感神経とのバランスを調節するのは鍼灸治療の特技で、免疫バランスに由来する多様な病気は鍼灸治療により改善できるのも、今までの鍼灸臨床や治験により証明されてきました。もちろん、どんな医学でも万能な存在ではなく、患者さんが病を克服する補助的な役割でしかありません。病によって苦しむのは患者側で、その病に打ち勝てるのも患者自身の体内環境、免疫力、体力、精神・栄養状態などの総合的な治癒能力です。治療する側は患者の苦しみを理解・同調し、心と医療技術、患者の利益を最優先する適切な生活指導の両方で寄り添い、それができて初めて患者が病気を克服(或いは病気と共に健康寿命を全う)お手伝いがいくらかできるのではないでしょうか。
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