どうして鍼灸は効くの(41)?
鍼灸治療による内臓反射が循環系、呼吸系、消化系に対する調節作用をそれぞれ見てきましたが、今回は泌尿・生殖系に対する調節作用を見ます。
(4)泌尿・生殖系に対する調節作用
① 腎臓の尿生成に対する影響
尿は腎臓で糸球体の濾過作用により生成され、尿の量は腎を通っている血流量に決定されます。腎臓に入る動脈(輸入細動脈)と腎臓から出る動脈(輸出細動脈)があり、交感神経により支配されます。脱水状態、激しい情緒変化の場合には、刺激を受けた交感神経は輸入・輸出細動脈の平滑筋を収縮させる結果、腎血流量・糸球体濾過率を低下させます。通常では細胞外液量に交感神経による影響はほとんどありません。
鍼灸治療のとき、意図的に交感神経を興奮させない限り、副交感神経が優位な状態になり、腎血流量が増加し利尿効果があります。鍼灸治療を受けた後に、よくトイレに行きたくなりますが、腎臓機能がよくなったところに理由があります。
② 膀胱の排尿機能に対する影響
腎臓で生成される尿は尿管により膀胱へ輸送され、膀胱に溜まります。その量が150〜300mlになったら尿意を感じ始めます。尿の排出は膀胱の機能で、膀胱を構成する平滑筋が収縮し、尿を尿道に押し出します。出口に内膀胱括約筋と外膀胱括約筋があり、内膀胱括約筋(平滑筋)を支配する神経は自律神経で、第2〜4腰髄(L2、3、4)から出る交感神経(下腹神経)により収縮し尿を貯留しますが、第2〜4仙髄から出る副交感神経(骨盤神経)によって弛緩し排尿を促進します。一方で外膀胱括約筋は意思でコントロールできる随意筋(横紋筋)で、第3、4仙髄から出る陰部神経(体性神経)に支配され、排尿の一時停止に働きます。つまり排尿時に働く神経は副交感神経となります。
膀胱で尿がたまったら膀胱壁が伸ばされ、伸展受容器は興奮してインパルスを仙髄側角にある副交感神経ニューロンに伝達します。刺激された副交感神経線維が膀胱の平滑筋を強く収縮させ、内膀胱括約筋が弛緩して排尿反射が起こり膀胱を空にします。この排尿反射の中枢は仙髄にあり、脊髄反射です。この反射は脳幹部や大脳皮質にある中枢により抑制か促進のコントロールがされます。
臨床ではよく見られるのは、膀胱内に尿が充満しているにもかかわらず、排尿がまったくできない急性尿閉と慢性的に尿の排出が不十分で、常に残尿がたまっている状態の慢性尿閉があります。原因としては、前立腺肥大による下部尿路通過障害、糖尿病による知覚麻痺、脊髄損傷、また副交感神経遮断薬(胃腸薬など)、βアドレナリン刺激薬(気管支拡張剤など)、平滑筋抑制剤(頻尿治療薬など)、ヒスタミンH1拮抗薬(アレルギー疾患治療薬)などの薬による副作用、心因性排尿筋の麻痺などがあります。長期間の尿貯留で腎盂腎炎、腎不全を引き起こす可能性もあります。
以上の疾患の場合に鍼治療でてきめんな効果が現れてきます。仙骨周辺のツボを刺激することで、脊髄反射により排尿反射を起こし尿閉状態が改善されます。また、反対に頻尿の症状、例えば過活動膀胱の症状に対しても同様なアプローチができます。
③ 子宮の収縮に対する影響
子宮の平滑筋は交感神経の下腹神経と副交感神経の骨盤神経の二重支配を受けています。副交感神経は子宮筋を弛緩させ、交感神経は子宮筋を収縮させるといわれています。
中国中医科学院鍼灸研究所は妊娠しているラットの異なるツボに鍼をしたところ、ツボによってラットの子宮筋に対する影響は違ってきます。生殖系疾患によく使う三陰交(下腿内側にあり、内くるぶし上4横指)というツボは子宮筋の収縮を強く促進させ、内関(手首にあり、手のひら側で手首横紋から3横指)は子宮筋の収縮を抑制することは観察されました。
実際鍼灸臨床では、流産の予防と治療には必ず内関穴をとります。反対に、中絶に関して現在は婦人科で手術を受けますが、手術が登場する以前に、中国では主に三陰交穴を使い人工流産を行っていました。
次回からは鍼灸の生理活性物質に対する調節作用を考えます。
待合室のお花たち。
治療院ベランダーのバラは毎年咲きます。今年もありがたいことに、きれいな色です。
このシリーズの内容は当治療院の許諾を得ないで無断で複製・転載した場合、当治療院(=作者)の著作権侵害になりますので、固く禁じます。