どうして鍼灸は効くの(15)?
六、鍼灸治療は海外ではどうなっているか
現在鍼灸治療は中国と日本だけではなく、140以上の国々に広まっています。北極圏にも中国人が開いている鍼灸治療院が活躍しているそうです。いろいろな国と地域では、特に日本、韓国、カナダ、アメリカ、ドイツ、オーストラリアなどの国に教育施設、研究機関などが設けられ、国単位で鍼灸治療の普及と研究に力を注がれています。現在、全世界で鍼灸治療に従事している専門家の人数は20万〜30万人にのぼり、今後更に増えると思います。1975年に世界保健機構(WHO)に委託され、中国の北京、上海、南京の三都市で国際鍼灸教育センターが設けられ、各国のために鍼灸のプロを養成しています。
1971年8月20~24日にアメリカのジャーナリストJames Reston氏は中国上海で数回にわたり鍼麻酔による手術現場を見学したのち、アメリカで大いに報道したので、鍼麻酔は一時アメリカで大変神秘的な話題となりました。1972年にニクソン大統領が中国を訪問し、鍼麻酔に非常に興味を示したことがきっかけとして、鍼灸治療と鍼麻酔が再び世界的に報道され、その威力と「不思議な効果」は各国の人々の間で興味深い話題となりました。1960年に中国で初めて鍼麻酔で肺切除手術に成功してから、1979年まで中国国内で鍼麻酔による手術件数は200万以上にのぼり、100種類近くの病気が対象なっていました。20世紀80年代以後は鍼麻酔の単独使用はほとんど歯科・耳鼻咽喉科の小手術に限り、大手術は西洋医学の麻酔薬と併用して使うのは主流となりました。鍼・薬複合麻酔は、麻酔薬使用量の減少、麻酔薬副作用の低下につなぎ、また患者さんが早く蘇生し、術後の回復が速い、かかる費用が安いなどの利点が挙げられます。
1979年12月に世界保健機構(WHO)は全世界に鍼灸治療の43適応症を発表しました。
WHO(世界保健機構)では、次に掲げる疾患に鍼灸治療が適応であることを認めています(現在及び今後更に増えると思います)。 |
系統分類 | 適 応 疾 患 の 例 |
神 経 系 | 神経痛・神経麻痺・痙攣・脳卒中後遺症・自律神経失調症・頭痛・めまい・不眠・神経症・ノイローゼ・ヒステリー等 |
運動器 系 | 関節炎・リウマチ・頚肩腕症候群・五十肩・腱鞘炎・腰痛・外傷の後遺症(骨折、打撲、むちうち、捻挫)等 |
循環器 系 | 心臓神経症・動脈硬化症・高血圧低血圧症・動悸・息切れ等 |
呼吸器 系 | 気管支炎・喘息・風邪および予防等 |
消化器 系 | 胃腸病(胃炎、消化不良、胃下垂、胃酸過多、下痢、便秘)・胆嚢炎・肝機能障害・肝炎・胃十二指腸潰瘍・痔疾等 |
代謝内分秘系 | バセドウ氏病・糖尿病・痛風・脚気・貧血等 |
生殖・泌尿器系 | 膀胱炎・尿道炎・性機能障害・尿閉・腎炎・前立腺肥大・陰萎等 |
婦人科 系 | 更年期障害・乳腺炎・白帯下・生理痛・月経不順・冷え性・血の道・不妊等 |
耳鼻咽喉科系 | 中耳炎・耳鳴・難聴・メニエル氏病・鼻出血・鼻炎・蓄膿症・咽喉頭炎・扁桃腺炎等 |
眼 科 系 | 眼精疲労・仮性近視・結膜炎・疲れ目・かすみ目・ものもらい等 |
小児科 系 | 小児神経症(夜泣き、かんむし、夜驚、消化不良、偏食、食欲不振、不眠)・小児喘息・アレルギー性湿疹・耳下腺炎・夜尿症・虚弱体質の改善等 |
WHOに推薦された適応症は43ありますが、実際の臨床で治療対象疾患は800以上にのぼり、いや、うちの治療院の臨床経験からみると、鍼灸で治療できない疾患はないと言えます。鍼灸治療の目的は人間本来持っている自然治癒力を調節・改善・向上させることですので、どの症状と疾患も適応となります。もちろん、心筋梗塞・脳梗塞・外傷・骨折など緊急手術が必要な病気は一刻も早く入院して西洋医学の治療を受けたほうがいいですが、この類の病気予防と手術後のケア、再発の予防は鍼灸の適応症です。また、肺炎・膀胱炎・腸炎など細菌による感染症には抗菌薬があるので、早期に薬物療法を受けたほうが治りは良いですが、普段から病気予防・健康増進の目的で鍼灸療法を受けると、免疫力が常に良い状態にキープできますので、これらの疾患の予防になるは確実です。高血圧・胃潰瘍・糖尿病などの慢性疾患には最近かなり効果の高い薬剤が開発されましたので、最初から薬物療法を受けるのはほとんどですが、鍼灸治療により病状を安定させ、治療薬の薬効を高め、薬の副作用を改善することもできる。
1987年にWHOの協力の元、世界鍼灸学会連合会を(WFAS)設立し、四年に一度世界規模の学会と年に一回のシンポジウムが開かれています。1989年に経絡、経穴などの専門用語はWHOジュネーブ会議で正式に承認され統一されました。
2006年に日本茨城県つくば市で、WHO西太平洋事務局(WPRO)が主催し、第二次日本経穴委員会と筑波技術大学の共催により、「経穴部位標準化公式会議」が開催され、361個のツボの位置が統一されました。これは東洋医学の各国間の交流を促進し、鍼灸治療の臨床効果に関する共同研究に非常に有利な環境を提供しました。また、東洋医学と西洋医学の互助による統合治療、つまり患者さんに対して最も合理的で且つ適切な医療サービスを提供するような環境作りにも有益です。
近年、アメリカでは鍼灸治療は速やかに普及しています。1997年に米国国立衛生研究所(NIH)が鍼治療に関するNIH合意形成声明書を発表し、手術後および化学療法による吐気・嘔吐などには明確的なエビデンスがあると確認しました。また薬物中毒、脳卒中、線維筋痛症、腰痛、喘息などについては「有効性を示す多くの研究があった」と指摘しました。副作用がある高価な医薬品を避け自然的な治療法を求めているアメリカ人は次第に、副作用なく、人間が本来持っている自然治癒力を生かし短期間で確実に病気を治せる鍼灸治療に目を向けるようになりました。また民間の医療保険会社のサービスに鍼灸治療が対象になっているため、更に鍼灸治療を受けやすくなりました。そのため、アメリカでは鍼灸治療にかかる医療費は全医療費のほぼ25%に上り、代替・補完医療(complementary and alternative medicine)として鍼灸治療の利用者は年々増加していると報じられています。
ドイツでは鍼灸治療を行っているのは医師またはハイルプラクティカー(Heilpraktiker・HP)です。鍼治療を施している医師の人数は4〜5万人と推定されていますが、東西統一も背景にあって、ドイツ鍼医師協会(DAGfa)に登録されている人数は一万名以上です。2004年の調査ではハイルプラクティカーを養成する学校が全国に146校が存在していますが、学校へ通わなくても国家試験にさえ合格すれば従業資格が取れる制度があります。但し試験は日本より遥かに難しく8人中1人しか受からないようです。資格をとったHPたちは独立開業したり病院に就職したりして、大いに活躍しているようです。鍼治療は医師の間、特に神経科、整形外科、疼痛科等で既に一般的な治療として臨床に広く応用され、堅い地位を確立していますが、鍼治療を受ける疾患を公的保険の適応疾患にすべきかどうかの判断をするために、2000年〜2006年にかけて、鍼治療の効果を科学的に検証する目的で40,000人を対象に「German-Studies」が実施され、2006年4月18日に慢性腰痛、膝痛への保険適応が決定されました。このようにドイツでは鍼灸治療の治療効果を医師たちが認め、国民が信じているため、広く一般的に普及しています。
またイギリスでは、鍼灸治療は補完代替医療として認められています。イギリス鍼灸師協会(British Acupuncture and Council,BAAC)に入会している鍼灸師は3,000人くらいいます。1993年にAcumedic Foundationの賛助により北京中医薬大学と協力し、ロンドン中医学大学院(Chinese Medical Institute & Register,CMIR)という中医学教育の大学が設立しました。この大学の影響力で、中国医学の思想や鍼灸、生薬、按摩などの治療法について、2008年6月16日に英国保健省から政府に「鍼灸、生薬、中医学」に関する立法提案を提出しました。更に鍼灸治療の合法性、信憑性、有効性などを確立ました。1996年にCMIRの院長梅万方がダイアナ妃に鍼灸治療を施し、最初は週に1回、良くなってから月に1回通ったそうです。患者さんは公立病院の鍼灸科治療が無料で、私立病院でも鍼灸治療が徐々に普及してきました。これ以外に他の4か所の大学に中医学の鍼灸本科が設置され、10ヶ所以上の鍼灸学校が設立されています。全国の鍼灸師の人数は7,500人がいると言われています。また医療保険会社のサービスに入れば治療費は還付されるそうです。
フランスはどうでしょうか。最初にフランスに鍼灸を導入したのはGeorges S.M.でした。彼はフランスの中国駐在領事館外交官の息子でした。当時中国で伝染病が流行り、領事館内でも感染者が出ましたが、病院での治療効果はよくありませんでした。館外に医術が非常に高い「神医」がいて、そっちにかかった患者は全員治ったと聞き、行ってみたところ、鍼灸という医術を使っている医者だと分かったそうです。以来、中国語が堪能が彼は北京、上海などで鍼灸の勉強をした後、20世紀30年代に金鍼、銀鍼を使ってフランスで鍼灸治療を始めました。フランス人はGeorges S.M.のことを「鍼灸の父」と呼ばれているそうです。その後、1958年頃にフランス人医師のP.ノジェが耳鍼療法を開発しました。耳鍼の開発で鍼灸治療に新しい天地が開かれ、その治療効果は確実かつ迅速で、急病・難病に非常に有効な治療として各国に速やかに広まっていきました。1988年にフランス医師会は鍼灸の資格証明制度を承認し、各地で鍼灸学校が設置されるようになりました。現在、フランス国内で鍼灸治療に携わっている方は約6,000人と言われています。鍼灸・中医研究所が18か所、鍼灸関連雑誌は6誌もあります。政府に「鍼灸専門委員会」も設けられています。
このように、各国で鍼灸治療についての教育・研究の強化に従い臨床効果も向上し、人類の健康、疾患の治療・予防、老化防止などに大いに貢献しています。