鍼談灸話(9):老化を引起す慢性炎症に対する鍼灸治療④-自律神経調整
こんにちは。渋谷区幡ヶ谷の胡鍼灸治療院です。
老化を引起す慢性炎症と鍼灸治療をテーマに、2016年12月8日、2017年6月20日、2017年9月15日のブログで、それぞれ炎症性サイトカイン、微小循環、胸腺退縮と鍼灸の関係について書かせていただきました。今回は慢性炎症と自律神経のバランスを考えます。
慢性炎症と自律神経の関係性については未だ研究途上で、既にわかっている部分は極わずかですので、全体像を俯瞰するレベルにはまだまだ到達できていないことを断っておかなければなりません。100年前から既に神経系と免疫系が関係していることに気づき研究し始めましたが、分子レベルでの解明はここ10年ぐらいの間です。
免疫系の細胞と言えば、白血球です。これはまた大きく顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)、リンパ球、単球に分類されます。
自律神経と言えば、交感神経と副交感神経に分かれます。交感神経は昼間の活動時間帯に興奮する神経で、体が過労、冷え過ぎ・暑すぎの状態にある時や、また精神が緊張、怒り、恐怖などの状態にある時に交感神経も緊張します。一方、副交換神経は夜の休息・睡眠時間に興奮する神経で、交感神経とは逆で、心身とも負担の少ない状態や、台風など低気圧時、美味しい物を食べる時などに興奮します。
免疫細胞である白血球の数、活性度、顆粒球やリンパ球の比率の変化などは直接免疫システムの正常化と関わっておりますが、これらの変化は様々な身体条件、中には特に自律神経(特に交感神経)によって支配されていると言っても過言ではありません。我々現代人は慢性的に交感神経が優位な状態になりがちと言われております。慢性的な交感神経優位、つまり副交感神経が慢性的に押さえつけられていることはどういう免疫状態を生んでしまうのか。上記の顆粒球とリンパ球で言うと、顆粒球が必要以上に増えてしまい、リンパ球が必然に少なくなります。リンパ球が少なくなると、免疫が下がります。顆粒球が増えると、血圧や血糖値は上がり、体のあちこちに慢性的な炎症が起こってしまいます。
慢性炎症が関与する疾患の例としては、肥満、膵炎、潰瘍性大腸炎、腎炎、腎盂炎、クローン病、悪性腫瘍(がん)、胃・十二指腸潰瘍、食道炎、歯周炎、メニエール病、全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患、血管炎、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺炎、神経変性疾患、アトピー性皮膚炎、骨代謝異常、非結核性抗酸菌症などがあります。そしてもちろん、このブログのタイトルにもあった「老化」も慢性炎症と直接な関係を持っております。慢性炎症が体にあると、老化は異常に早く進みます。
一方で、副交感神経(本当は、内臓に分布する副交感神経の一つである「迷走神経」と書くべきですが)が優位になると、免疫器官の脾臓にある神経(脾神経)が関与する反射を介して、TNFαをはじめとする炎症性サイトカインの産生を抑制します。言い換えれば、副交感神経が正常なサイクルで働けば、炎症の慢性化を防ぎます。
このシリーズのブログでは、鍼灸治療が慢性炎症を抑制する仕組みを以下の仮説で説明しております:
①炎症性サイトカインを抑制し、抗炎症性サイトカインを活性化できる。
②炎症性物質や老廃物をすばやく回収するための微小循環を活性化できる。
③慢性炎症を取り除く免疫応答機能を回復&強化できる。
④自律神経のバランスを取り戻し、抗炎症作用を強められる。
今回は最後の④番に焦点を当てております。2018年2月20日のブログ、「どうして鍼灸は効くの(10)?」シリーズでは、鍼灸治療により、脳幹を反射中枢とする上脊髄反射は副交感神経を賦活させる作用について既に解説しておりますので、以下にその一部を添付させていただきます:
———————————-
2018.2.20ブログからの抜粋:よく知られているのは、鍼灸による自律神経、特に副交感神経に対する強力な賦活作用です。鍼灸の特徴の一つに、遠隔治療があります。これは西洋医学において「体性-自律反射」(「体性-内臓反射」)として説明されます。つまり、一定の体表を刺激すると、その興奮は脊髄の同じ高さの神経支配を受けている内臓に反射作用として影響を及ぼす。特に、脳幹を反射中枢とする上脊髄反射は副交感神経を賦活させることで知られております。
———————————-
今後の別シリーズでは、更に鍼灸と自律神経の関係性をより詳しく見ていけたらと思います。本日は鍼灸治療により過度な交感神経の興奮を抑え、弱まりがちな副交感神経の活動を賦活させることで体に起こる慢性炎症を軽減・予防できることをお伝えして、この「老化を引起す慢性炎症に対する鍼灸治療」シリーズをここで一旦終了させていただくことにいたします。
待合室のお花です。