どうして鍼灸は効くの(66)?
第2章 運動器の病気に対する鍼灸治療
運動器を簡単に言えば、からだを動かすときに使う筋・骨・関節・神経のことです。筋肉が骨についていますが、関節は複数の骨から作られ、関節を固定するのは筋肉の両端にある靭帯や腱で、関節を保護するのは関節包、動かすのは筋肉です。
日常生活で最も酷使されている関節は背骨の関節、膝関節、肩関節、股関節などが挙げられますが、それらと関連する筋・腱・靭帯も故障が起こりやすいです。
一、腰の病気
腰痛などの問題で鍼灸治療院を訪ねる患者さんは非常に多いです。原因はいつくかありますが、まず言えるのは鍼灸による治療効果が一般的に最も良いからです。一回の治療で完治する方もいれば、数回通えば治る方もいらっしゃいます。また、日本では鍼灸による内臓疾患・自律神経・内分泌・免疫システムの病気を治療できることはあまり一般的に知られておらず、どちらかどいうと、「鍼灸と言ったら、肩こり・腰痛でしょう」というイメージがまだまだ強いからかもしれません。ここで言う腰の病気は内科・婦人科・腫瘍・感染症に由来する原因を除き、純粋な腰部の痛み、足のしびれ・痛みを中心とする整形外科の病気のことです。
腰の病気は年齢と関係なく、どなたにも発生する可能性があります。青壮年の方にはぎっくり腰・腰椎椎間板ヘルニア・腰椎分離症、年配の方には腰部脊柱管狭窄症・腰椎すべり症・変形性腰椎症・骨粗鬆症・腰椎圧迫性骨折などがあります。どの病気もまず腰局部の痛みを感じ、腰の痛みがなくても、合併症としての坐骨神経圧迫症状(おしりや足の痛み・痺れ)、間欠性跛行(歩くと足の痛みと痺れがひどくなり、しばらく休むと回復しますが、歩き出すとまたそのうち痛みと痺れがでる)などの症状が現れてきます。なお、うちの患者さんで、数回鍼灸治療を受けてもまだ完全に痛みを取れず、最終的にはお友達でもある整形外科の先生の手術を受け、完治した例も1件(椎間板ヘルニア)ありました。うちの患者さんに聞けば、手術が怖い、手術を受けても治る保証はない、整形外科クリニックの先生も手術をやめたほうがいいと言う、知り合いが手術を受けたら神経が傷つけられ、余計に足が上がらず歩けなくなった、手術するほど症状はひどくない、整形外科の温存療法でよくならない、などの理由から鍼灸治療を最終的に選んだそうです。
脊柱(背骨)は33~34個の椎骨および椎間板からなり、各々の椎骨は椎間板を挟んで関節となっています。日常生活で最もよく使う関節は腰(4番、5番の腰椎、1番の仙椎の間の関節)と首(5番、6番頚椎の間の関節)の関節です。そのため、腰と首(後述)関節の磨耗や損傷は最も激しいです。鍼灸が腰の病気によく効くメカニズムは次の通りです:
1、鎮痛作用
腰によく発生する病気は種類を問わず、腰や足などに痛みがあります。激しい疼痛から鈍痛まで、患者さんが一番悩む症状でもあります。このシリーズでは、今までのブログで様々なメカニズムによる鍼の鎮痛作用を紹介させていただきましたが、もう一つの研究をここで付け加えます。鍼、特に電気鍼が即効性の鎮痛効果をもたらすメカニズムは、腰椎の脊髄後角における細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)1/2の表出を減少させ、その活性を抑制することがわかりました。ERK1/2は分裂促進因子活性化たんぱく質キナーゼ(MAPK)ファミリーの中で最初に同定されたもので、古典的MAPKともいいます。
MAPKは全身の細胞に広く発現されているたんぱく質のリン酸化酵素で、何らかの刺激で活性化されると細胞のシグナル伝導を起こします。腰痛の場合、腰の痛い箇所や圧迫された腰椎神経(坐骨神経の一部)の周囲は炎症反応が起こり、炎症性物質がMAPKを刺激して活性化させます。活性化されたMAPKは疼痛の早期発生、伝導と直接関係があると考えられています。ラット実験で、腰椎椎間板ヘルニアのモデルラットの脊髄後角細胞におけるERK1/2は早期活性化し表出が著しく上昇しましたが、電気鍼を受けたモデルラットはその表出レベルが5時間後に速やかに低下したため、痛覚閾値が明らかに上昇したことがわかっております。そして3日目、7日目、14日目に測定したERK1/2は少しずつ戻ってきたのですが、一番高いときよりまだ低い状態に維持していました。結論としては、鍼治療のよるもう一つの鎮痛作用のメカニズムはMAPKの活性化を抑制することにより実現されたと考えられます。
2、血行改善作用
鍼灸治療により、血管が拡張し血流をよくさせる作用があることをこのシリーズ前半で説明させていただきましたが、補足として、中国東南大学付属病院の研究発表を紹介いたします。当大学も腰椎椎間板ヘルニアモデルラットに鍼治療を施し、治療前後のトロンボキサンB2(TXB2)とプロスタグランジン(PG)F1α(PGF1α)値を測定して比較しました。
TXB2はトロンボキサンA2(TXA2)の代謝産物で、TXB2を測定すれば、TXA2の血中レベルがわかります。TXA2は血管収縮、血小板凝集などの作用がある物質です。PGF1αはPGI2の代謝産物で、PGF1αの値が分かるとPGI2の量を推測できます。PGI2はプロスタグランジンファミリーの一員で、血管拡張、血小板合成を阻害する働きを持ちます。
TXA2とPGI2の両方ともたんぱく質のアラキドン酸から合成された生理活性物質で、合成酵素の違いにより、それぞれTXA2とPGI2に合成されます。しかし、両者の生理活性はまったく反対で、互いに拮抗作用を持っていることが明らかです。そのため、血管が正常機能を果たすためにTXA2/PGI2のバランスは大変重要になってきます。
東南大学付属病院の研究では、鍼治療後、モデルラット血中のPGF1αの量は上昇し、PGF1α/TXB2の比は明らかに高くなりました。PGI2の量が増えると、TXA2の作用に拮抗して血管が拡張し、血小板の凝集を防ぐことができます。結果として血行が改善されます。
腰痛の場合はなぜ血流が非常に重要でしょうか。急性炎症を伴う急性腰痛(ぎっくり腰、腰椎椎間板ヘルニアなどの初期)を除き、ほとんどの腰痛治療には腰の血流をよくする必要があります。それは、①腰か足の痛み・しびれがあると、運動を自然に控えてしますため、運動不足で全身の血液循環は悪くなりがちです。②痛みで腰部の筋肉が硬直となり、筋肉中の微小循環が悪くなります。③血流が悪くなると、腰部の骨・筋肉組織に酸素などの栄養素が不足となり、代謝後の老廃物質も溜まります。この中に、痛みを引き起こす疼痛物質も含まれます。④代謝が悪くなると、筋肉や軟部組織が退行性病変になるだけでなく、電解質のバランスが崩れ、細胞代謝の内部環境恒常性も破壊され、神経細胞の変性、有髄神経線維の髄鞘となるシュワン細胞は部分的に変性・壊死となるため、神経は痛みに対する敏感度が高まります。
このため、腰痛の場合、特に慢性腰痛に対して、局部の血液循環を改善する治療はとても重要です。
ほかの鍼作用は次回にて、お話させていただきます。
勤勉な蜜蜂、やはりかわいいですね!子供の頃、蜂にチョッカイを出してひどく刺された記憶があります。でも、やはり蜜蜂さんはかわいいです。
さつま芋の花ですって(後日これはジャガイモの花だと訂正されました^-^)。
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