どうして鍼灸は効くの(53)?
このシリーズの第50回からは、鍼灸治療が人体の免疫系統を正常な状態に持っていくことができる話をさせていただいております。免疫系統の正常化というのは、免疫低下だけでなく、免疫過剰・誤認による自分自身に対する免疫攻撃或いはアレルギーを改善・治癒することを言います。つまり、健康にとって一番望ましい免疫系統のバランスを取り戻すことです。まず、鍼治療に関して、刺鍼で皮膚・皮下組織・筋肉・骨及びそこに分布する血管などに対する鍼の刺激が発生し、この刺激がどのように免疫力を正常化していく仕組みを見てきました。今回は鍼による自律神経系と内因性モルヒネ様物質の調節、それらによる免疫系の正常化について言及します。なお、今日の内容に関しては、今までのブログでも所々言及してきた内容がありますので、詳細はそれらと合わせて見ていただければ幸いです。例えば:
①2018年2月20日:
「どうして鍼灸は効くの(8)?→現実と夢の境目には「医の原点」があります。~その1」
②2019年3月15日:
「鍼談灸話(9):老化を引起す慢性炎症に対する鍼灸治療④-自律神経調整」
③2016年3月18日:
「どうして鍼灸は効くの(3)? →鍼鎮痛③:体性―自律反射」
④2020年1月17日:
「どうして鍼灸は効くの(35)?」
⑤2015年6月22日:
「免疫細胞たちの出会いと鍼灸」
⑥2016年10月14日:
「どうして鍼灸は効くの(5)? →鍼鎮痛⑤:内因性オピオイドとその受容体」
2、自律神経系の調節による免疫系の活性化
免疫系の働きは自律神経のバランスから影響を受けていることは周知の通りです。交感神経が緊張すると白血球中の顆粒球が増加し、副交感神経が優位になるとリンパ球が増えます。顆粒球が多すぎると自己免疫疾患にかかるリスクがあり、リンパ球が多すぎるとアレルギー疾患になりやすいこともわかっております。つまり、自律神経系の交感神経と副交感神経のバランスが重要です。繰り返しになってしまいますが、鍼治療は自律神経のバランスを調節するのは得意です。
非常に強いストレス或いは長期間のストレスを抱えると、交感神経が異常に興奮し、常に優位に立つと、免疫力が落ちます。しかし、適度なストレスで交感神経がほどよく緊張する時は逆に免疫力が上がることもあります。例えば、仕事や勉強に忙しく没頭している時には風邪を引きませんが、プロジェクトや試験が終わった途端、風邪を引いてしまうという経験をしたことがあるのではないでしょうか。
患者さんの生活環境、生活習慣を理解した上で、その日の精神状態と体の状態を見ながら、適切な鍼刺激を加えないといけません。例えば、日常生活で特にプレッシャーを感じることもなく、いつものんびりしているのに、なぜかすぐに風邪をひいてしまう、花粉症もひどくて、、、という方はむしろ、少し交感神経を興奮させることで免疫力を高めることができ、花粉症の症状も和らぎます。
交感神経を興奮させる伝導経路は次のように考えられます:鍼刺激は求心性神経(感覚神経)線維により間脳にある視床下部に伝わります。視床下部は自律神経の交感神経と副交感神経の両方を調節する高次中枢で、強い鍼刺激で交感神経反射の出力は優位になり、逆に弱い刺激は副交感神経を優位にします。
3、内因性モルヒネ様物質による免疫細胞の活性化
近年、内因性モルヒネ様物質(内因性オピオイド)の受容体(レセプター)はナチュラルキラー細胞(NK細胞)、リンパ球などの免疫細胞の表面にも存在すると分かり、内因性オピオイドと免疫系の関連性は非常に興味深いことになってきました。中で特にβ-エンドルフィンの働きが注目されています。β-エンドルフィンが免疫細胞にあるレセプターと結合し免疫細胞を活性化して、全体の免疫力を増強させることができます。例えばリンパ球の一種であるNK細胞の活性化による強力な抗がん作用が認められています。
鍼刺激は視床下部の神経ニューロンからβ-エンドルフィンの生成・放出を促進する効果がてきめんで、以前のブログで書かせていただいた鎮痛・精神安定・気分改善などの作用以外に、今日のテーマである免疫細胞活性化にも多いに役立っています。
遠くへ行かなくても、近所に咲く小さなお花も色々と可愛いです。
桜の花びらと一緒に舞う小さな蝶、可愛いですね!
モンシロチョウも!
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