どうして鍼灸は効くの(13)?
こんにちは。渋谷区幡ヶ谷の胡鍼灸治療院です。今日はいくつか代表的な鍼灸理論を見ていきたいと思います。
三、代表的な鍼灸理論はどんなものか。
1、「天人合一」の思想と「整体・統合」の観念
基礎理論を説明する前に中医学の基本理念 ― 「天人合一」の思想と「整体・統合」の観念を紹介します。
人間は自然の中で生きています。東洋医学では、自然は「大宇宙」で、人間の体は「小宇宙」だと考えています。自然には「春暖・夏暑・秋冷・冬寒」の四季変化がありますが、人間の五臓六腑は自然界の四季に合わせて働いています。また、一日に「四時」があり、朝を春、昼を夏、夕方を秋、夜を冬とするのがこの四時の考え方です。体の生命活動は自然界の四季と四時の変化に一致すれば健康でいられますが、自然規律に逆らえば、病に侵されやすくなります。これは天(自然界)と人間は一体になっている、つまり「天人合一」思想です。
「整体・統合」観念は、体の各組織・器官・臓器同士の統一性・協調性を強調しています。一箇所に異常が生じると、ほかの組織・器官・臓器にも悪影響を与えます。例えば、五臓六腑(五臓:肝・心・脾・肺・腎、六腑:胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦)の一箇所に異常があると、皮膚、筋肉、骨などの組織や、目、舌、口、鼻、耳などの器官にも影響を与えます。逆に、これら組織と器官に異常があると、五臓六腑にも反応が現れてきます。つまり、人体の局所と全身は統合され、「有機整体」になっているということです。中医学は決して局所異常だけを見ずに、常に体全体の様子を診みながら、局所の病気を分析し治療を施します。また、局所の異変から体全体の健康状況と臓腑の機能状態を推察し、全身治療を同時に行います。
2、陰陽学説
宇宙のすべては物質的な統一体で、陰陽二気の相互作用によって誕生、成長、変化したものだと考えられています。私たちがよく知っているように、すべての元素には陰と陽がある。それと同じように人体にも陰と陽があります。陽は、文字通り陽気で、暖かく、明るく、活動的、積極的、表的で、外向性と向上性があります。陰は、陰気で、冷たく、暗く、沈静的、裏的、消極的で、内向性と下降性を持っています。陰と陽の関係は対立的であると同時に統一されています。互いに抑制し合いながらまた依存されています。陰と陽のバランスは常に「四時」の変化に応じて変わっています。昼間は人間の体に陽気が溢れ、積極的にいろんな活動をします。夜になると陽が弱まり陰が強くなり、体は疲れ眠くて眠ります。陰と陽のバランスがよく保つことができれば、健康状態に維持できます。近代医学の概念で考えてみると、自律神経系の交感神経と副交感神経はまさに「陽」と「陰」のイメージにぴったりとはまります。
3、五行学説
中医学は宇宙万物の構成は「木、火、土、金、水」という五つの要素からなり、五要素の運動(五行)ですべての事象を説明できると考えています。五要素の間には「相生」と「相剋」の関係があります。
相生関係では、木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生じ、水は木を生じます。相剋関係では、木は土を剋し、土は水を剋し、水は火を剋し、火は金を剋し、金は木を剋します。人間の五臓六腑もそれぞれ「五行」属し、「五行」の属性を持っています。「生」は生む、活かす、活発させるという意味がありますが、「剋」は抑える、制約・統制するという意味を持っています。五臓六腑の間は互いに助け合って、抑制し合うことによって、体を健康状態に維持しつつ、正常な生命活動が行えます。西洋医学の有名な「ホメオスタシス」(生体内恒常性)の考えに似ていると思います。
しかし、一つの臓器が別の特定臓器に抑えられ(剋されている)過ぎると、やがてこの臓器には病気が起きます。こういう現象を「相乗」といいます。また、何かの原因で剋されるべき臓器が異常に強くなり、普段自分を剋すばかりの臓器に打ち勝ってしまうという逆転現象を「相侮」といいます。相乗と相侮はいずれ五行の相剋関係の異常現象で、中医学において治療手段により正さなければなりません。
4、蔵象学説
「蔵」は体内に蔵する臓腑をいい、「象」は臓腑が体表に現れる生理、病理現象を指します。つまり「蔵象」は、臓腑の生理機能と体の表面に現れる病理現象と症状をいいます。
臓腑には次のような臓器が含まれています。
五臓:肝、心、脾、肺、腎
六腑:胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦
奇恒の腑:脳、脈、骨、髄、胆、女子胞(子宮)
胆は六腑と奇恒の腑の両方に属します。三焦というのは中医学の専門用語で、とくに一つの臓器を指すわけではありません。上焦は咽喉から横隔膜まで、主に心と肺のことです。中焦は横隔膜からおへそまでにある胃、肝、胆、脾を指しています。下焦はおへそから恥骨までの、大腸、小腸、膀胱、腎などの臓器を含んでいます。
臓は陰に属し、主に生命の根源になる精気を貯蔵しています。腑は陽に属し、飲食物を消化・吸収・排泄する働きをしています。奇恒の腑は、形が腑に似ているが機能は臓に似ています。臓腑はそれぞれ特有の機能を備えていますが、単独に機能しているわけではなく、互いに協力・制約して、体全体の生命活動の調和と安定を保っています。
5、気、血、津液(水)の学説
気:
日本語は中国語より日常的に「気」という文字を使っているかもしれません。「病は気から」というのはまさに、中医学の基本的な思想を表す言葉です。中医学の「気」は見えませんが、体の至るところに存在しているものです。気は人体を構成する基本的な物質であり、両親からもらった先天の原気、食物から化生した水穀の精気(営気と衛気)、空気から吸入した清気(宗気)などで構成されています。
気の働きは:
(1)血液循環、消化と吸収、新陳代謝、排泄などの生理活動はすべて気の推進力で営んでいます。
(2)気の運動によって熱を生産し、体は暖められ、種々な生命活動が維持されています。
(3)体表面にある「衛気」により病邪の侵入が防がれる。
(4)気の力によって体に入った食べ物と飲み物は加工され、水穀の精微(栄養素)に化生します。水穀の精微から気、血、津液(水)など体の基本的な構成物質が生成されます。
(5)気の固摂作用によって各臓器はあるべき場所に固定され、血液は血管からこぼれないし、尿液や精液も簡単に漏れたりしません。
血:
血は水穀の精微から作られ、脈内を流れて全身に栄養素と酸素を運んでいく。
津液:
水といったほうがわかりやすいかもしれませんが、唾液、胃液、腸液、尿液、鼻水、汗、涙など、体内のあらゆる液体を含みます。津液はそれぞれの臓器を潤い養う働きがあります。