どうして鍼灸は効くの？（８４）－糖尿病及びその予備軍

前回に引き続き、鍼灸治療による糖尿病性腎症の改善作用をみます。

天津中医病院研究グループは三年間にわたり、１２６名の入院患者を観察組（６４名）と対照組（６２名）に分け、両組とも西洋医学の治療（病状に応じて飲み薬やインスリン皮下注射）を受けながら鍼治療を施しましたが、観察組は同グループが検討した糖尿病治療専用ツボ群を使い、対照組は教科書にある常用ツボ群を使って、両組とも１日２回、１回は刺鍼してからそのまま３０分置鍼します。１治療コースは7日間で、数日休んでから治療を再開します。全部で６コースを終えれば治療完了となります。そして、前回のブログで書いた検査指標を、鍼治療前と治療後の結果を比較しました。

結果は次のようになっています。

まず尿中のＵＡＥ（mg/24h  x-±s）は、観察組は治療前の314.310±50.634から122.431±20.810に激減しましたが、対照組は治療前の303.311±51.702から294.504±49.621に減少しました。

尿中のβ₂－ＭＧ（μg/24h  x-±s）は、観察組は治療前の652.603±127.412から328.213±108.201に、ほぼ半減したのに対して、対照組は661.703±120.412から656.414±118.601に少しは落ちました。

尿中のＭＣＰ（pg/mg　±x-s）は、観察組は治療前の290.124±108.302から116.512±97.202まで明らかに減少しましたが、対照組は280.431±110.606から252.521±115.445に少し減りました。

以上のデータからみると、研究グループが検討して組み合わせた治療ツボ群は糸球体の濾過・尿細管の再吸収機能の回復、免疫性サイトカイン活性の抑制による糸球体破壊の阻止に対して、かなりの治療効果は現れてきました。

当グループの研究目的は、ご自分で検討してまとめたツボ群がより高い治療効果があることを証明するためですが、実際には、一般論の糖尿病治療ツボ群にも効果があります。以下は、対照組の治療結果を省略し、観察組の結果・結論だけを紹介します。

ほかの項目について具体的な数字を省略しますが、結果から計算した変化の比率のみを紹介します。

６コースの鍼治療を受けてから④の血液クレアチニン（Ｃｒ）は約２３％下がり、⑤の血液尿素窒素（ＢＵＮ）は約２１％、⑥の糸球体濾過量（ＧＦＲ）は約２０％も上昇しました。

⑦の腎動脈内径（Ｄ）はやく０．１cmが広がり、腎血流速度（収縮期腎動脈最高血流速度Ｖmax、拡張終末期腎動脈血流速度Ｖmin）は約１７cm/sと６cm/sが増え、⑧の腎血流速度時間積分値（ＶＴＩ）は約１７cm/s増加、⑨の腎動脈血流量（Ｑ）は約１３５ml/min増加、⑩の腎血流抵抗係数（ＲＩ）は約０．２５と減りました。

近年、免疫系による炎症性反応は糖尿病性腎症の形成過程において大きく作用していると考えられています。５年後、同研究グループはまた２年をかけて１４２名の入院患者さんに鍼治療を併用し、使うツボや治療方法は５年前と同じです。今回測定した指標は、前回の腎血流動力学指標を除いたものに、ＣＤ４陽性Ｔ細胞、ＣＤ８陽性Ｔ細胞、ＣＤ４⁺/ＣＤ８⁺の比値を測定して、免疫細胞の関与性と鍼灸の治療効果を分析しました。

ＣＤ４陽性Ｔ細胞はヘルパーＴ細胞（Ｔｈ）ともいい、ほかのＴ細胞の機能発見を誘導し、Ｂ細胞の分化・成熟を促進、抗体産生を誘導します。ＣＤ８陽性Ｔ細胞はキラー細胞（細胞傷害性細胞　Ｔｃ）で、ウイルスに感染した細胞や癌細胞を殺す働きを持っています。正常状態ではＴｈ（ＣＤ４⁺）とＴｃ（ＣＤ８⁺）との比はほぼ２：１のバランスで維持していますが、この２つの比値が高くなると自分で自分の組織を攻撃しやすい状態になってしまいます。

実験で鍼治療前後のデータ変化を見ると、治療前にＣＤ４⁺細胞が多く、ＣＤ４/ＣＤ８は2.47±0.52でしたが、治療後に1.40±0.32にまで下がりました。

糖尿病腎症の場合、糸球体毛細血管基底膜の肥厚、メサンギウム細胞の増殖・硬化、糸球体の結節性硬化、腎盂腎炎など慢性的な腎臓の炎症などにより、ＣＤ４陽性Ｔ細胞の増殖・活性化が誘導され、この活性化によりＢ細胞や抗体の増加・活性化を誘発し、糸球体への傷害はいっそう拡大する恐れがあります。ここで鍼による治療に入ると、鍼の刺激によるＣＤ４/ＣＤ８のバランスは一旦是正され、免疫細胞による腎傷害はある程度で免れたと考えられます。

以上の実験結果から、鍼灸の糖尿病性腎症の予防・治療効果は、腎血流量・糸球体濾過機能などの改善だけでなく、糸球体毛細血管における炎症性変化の抑制、自己免疫性攻撃の抑制から実現されると考えられます。

次回は糖尿病がかかわる心筋梗塞、脳梗塞の、鍼のよる予防と治療作用です。

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